データが豊富な実験のためのラボ用自動リアクターとIn-situサンプリング
Jurica, J. A., & McMullen, J. P. (2021). Automation Technologies to Enable Data-Rich Experimentation: Beyond Design of Experiments for Process Modeling in Late-Stage Process Development. Organic Process Research & Development, 25(2), 282–291.
この記事では、豊富なデータによる実験(DRE)を利用して反応の特性を完全に評価し、同時に医薬品開発の後期段階で競合する可能性のある目標の影響を軽減する、説得力のあるケースが紹介されています。DREは、広範なリアルタイム分析データを提供する技術を活用し、モデリングツールと組み合わせて反応とプロセスを完全に定義するために使用されます。反応は非直線的に進行することが多いので、実験期間中に時間基準の分析データを収集することで、反応の進行状況をより正確に把握できます。自動でのin-situサンプリングにより実験の負担が軽減されるため、研究者はこのデータを簡単に取得し、実験ごとに得られる知識を最大化できます。
この研究では、自動卓上型リアクター(EasyMax 102有機合成装置)とオートサンプラー(EasySampler 1210)を使用して、環化反応の後期段階におけるプロセス特性評価の研究をサポートしました。豊富なデータによる実験は、24の完全な要因分析的なDesign of Experiment(DoE)に従って構成され、22時間の実験ごとの過程において12の反応サンプルを等間隔の時間で採取しました。EasyMaxではリアクター条件での正確な制御が可能な一方、EasySamplerではHPLC分析用に反応サンプルが自動で抽出、クエンチ、希釈されました。次に、得られた情報を使用して、それぞれの応答変数について動的応答曲面を生成し、高い収率と反応安定性の両方の達成に必要な、時間依存の競合条件とトレードオフをモデル化しました。このような動的応答曲面法とDoE主導での豊富なデータによるプロセス特性評価との組み合わせを使用することで、著者らは大きな時間的な設計空間を簡単かつ迅速にスキャンすることができ、従来の方法と比べて効率性と実験の再現性を大幅に向上させました。
速度論の分析とプロセスの理解を速めるIn-situ FTIR
Yang, C., Feng, H., & Stone, K. (2021). Characterization of Propionyl Phosphate Hydrolysis Kinetics by Data-Rich Experiments and In-Line Process Analytical Technology. Organic Process Research & Development, 25(3), 507–515.
リン酸プロピオン酸(PrP)をリン酸供与体として使用した酵素的リン酸化は、重要な医薬品原薬(API)の合成の重要な1つのステップです。PrPをリン酸供与体として使用することにより、ダウンストリームの生体触媒プロセスにはメリットがもたらされます。しかし、これには課題もあります。慎重なプロセス管理を行わないと、PrPの加水分解と目的の酵素反応との競合が生じる可能性があります。加水分解反応は温度にも依存し、簡単には停止できないため、HPLCなどの従来のオフライン分析ツールによるスケールアップやモニタリングが困難です。FTIRベースのプロセス分析技術(PAT)は現実的な代替技術であり、加水分解反応のin-situモニタリングに使用されています。
この研究では、繰り返し温度走査(RTS)実験のin-situ FTIR分光法を計算モデリングと組み合わせて使用し、リン酸プロピオニルの加水分解の反応速度論を特性評価するコスト効率的で堅牢なアプローチを開発しました。 ReactIRを使用して、EasyMax 102高機能サーモスタットシステムで実行された単一のPrP加水分解反応の程度をモニタリングしました。 反応中に採取した7つのサンプルのオフラインNMR分析を使用して、in-situ FTIRの豊富なデータセット(最大3000のデータポイント)を校正しました。 次に、得られた濃度プロファイルと温度データをDynochemモデリングソフトウェアを使用して一次キネティクスモデルに当てはめ、PrP加水分解の2つの重要なキネティクスパラメータを初めて報告しました。 中性pH付近での活性化エネルギーは107.2 kJ/molであり、また33 ℃時の見かけ速度定数は0.0721 h-1であることが分かりました。 さらに、Dynochemを使用して反応能力をシミュレートし、リスクを緩和するプロセス管理戦略の開発に役立てました。 著者らは、改良型RTS法とリアルタイムのin-situPAT反応モニタリングを利用したデータが豊富な実験によって、定量可能な反応速度論を生成しプロセスの理解を速めるために必要な情報を、1回の適切に設計された実験の実施によって得られると結論づけています。
結晶化最適化のための情報をもたらすIn-situラマン、FTIR、FBRM、粒子径画像分析)
Gao, Y., Zhang, T., Ma, Y., Xue, F., Gao, Z., Hou, B., & Gong, J. (2021). Application of PAT-Based Feedback Control Approaches in Pharmaceutical Crystallization. Crystals, 11(3), 221.
晶析プロセスの正確な制御は、最終的な結晶化製品の多形、結晶形状、粒度、粒度分布を制御します。プロセス分析技術(PAT)は、晶析プロセスを制御するためのデータを駆使したプロセスの開発を可能にする、重要なプラットフォームになりつつあります。 この記事では、オンラインモニタリング技術により収集された情報に基づくモデルフリーフィードバック制御のアプリケーションを中心に、晶析の領域におけるPATの最近の開発についてまとめています。
著者らは、リアルタイムPATを使用したいくつかの異なるモデルフリー戦略について詳細に説明しており、これらの戦略はさまざまな晶析プロセスに適用され、粒度分布、結晶多形制御、製品品質の向上をもたらしています。 これらの戦略には以下が含まれます。
- FTIR-ATR並びにUV/VIS – ATRを用いた研究室と製造スケールでの結晶の冷却・溶解のための過飽和制御(SSC)/濃度フィードバック制御(CFC)
- FBRMによる溶液中の粒子数に基づく直接核生成制御(DNC)
- 溶液中でのラマンベースによる多形測定を応用した多形濃度制御(PCC)
- 溶液中の粒子をモニタリングする画像解析ベースの直接核生成制御(IA-DNC)
- ATR-FTIRとFBRMを使用し、SSC-DNCをマスカウント(MC)メソッドと組み合わせて実施
- ラマン分光法とATR-UV/VIS分光法を併用したアクティブ多形フィードバック制御(APFC)
統合連続製造システムでin-situ分析を可能にするPAT
Testa, C. J., Hu, C., Shvedova, K., Wu, W., Sayin, R., Casati, F., Halkude, B. S., Hermant, P., Shen, D. E., Ramnath, A., Su, Q., Born, S. C., Takizawa, B., Chattopadhyay, S., O’Connor, T. F., Yang, X., Ramanujam, S., & Mascia, S et al. (2020). Design and Commercialization of an End-to-End Continuous Pharmaceutical Production Process: A Pilot Plant Case Study. Organic Process Research & Development, 24(12), 2874–2889.
製薬業界で伝統的に使用されてきたバッチ方式の製造アプローチには、技術的な欠点から品質管理の問題、サプライチェーンの脆弱性に至るまで、多くの課題があります。 最近では、統合された一連の単位操作を使用して生産を合理化する統合連続製造(ICM)が、新たな手法として注目を集めています。 ICMシステムでは、モデルベースの制御システムが使用され、様々なプロセス分析技術(PAT)機能が装備されています。 この記事では、医薬品原薬(API)と市販の後発医薬品の錠剤の両方を製造するエンドツーエンドのICMパイロットプラントの開発について報告します。
6台の処理ユニットのうち4台でリアルタイムのテストを実施し品質目標が守られていることを検証するために、PATプローブが導入されました。 反応結晶化装置には、弦長分布(CLD)を測定し反応物の濃度と反応の収率を求めるために、ParticleTrack(FBRM)とReactIR in-situプローブが使われています。 FBRMとIRを同様に再懸濁装置に配置し、API結晶の弦長分布とスラリー中の反応物/溶媒含有量を測定しました。システム中の他のPATには、ドラム乾燥後の残留溶媒含有量を測定しポリマー融体中のAPI含量均一性を測定するための、近赤外プローブも含まれています。 またラマンプローブを2つの異なる場所での結晶形態/結晶化度の測定に役立て、乾燥後にレーザー光回折システムによりAPIの粒度分布を測定しています。
パイロットプラントが医薬品原薬と錠剤の仕様に準じた生産に成功したことは、リアルタイムのPATを統合システム制御と組み合わせて使用することで、効率の改善、エネルギー消費の削減、在庫レベルとリードタイムの低減、設備投資の低減(この例では最大90%)をいかに実現できるかを示しています。
熱量測定による化学反応の安全性の確立と製品品質の向上
Agosti, A., Panzeri, S., Gassa, F., Magnani, M., Forni, G., Quaroni, M., Feliciani, L., & Bertolini, G. (2020). Continuous Safety Improvements to Avoid Runaway Reactions: The Case of a Chloro-Thiadiazole Intermediate Synthesis toward Timolol. Organic Process Research & Development, 24(6), 1032–1042.
開発のあらゆる段階で監視でき、プロセスの情報をもたらす最も基本的なパラメータの1つに、温度があります。プロセス分析技術(PAT)の観点ではあまり議論されませんが、熱量測定は、プロセスの熱力学を安全かつ効果的に設計し制御するために必要な、貴重なデータと反応に対する理解をもたらします。 この研究では、既存プロセスの熱量測定の結果、これまで知られていない安全性の懸念が明らかになりました。 研究者は、得られた情報をもとに、熱に関連した安全性のリスクを低減し、同時に反応収率と生成物の品質を向上させるために、プロセスを修正することができました。
緑内障の治療薬として1978年に発売されたβ遮断薬「チモロール」の合成において、中間体を生成するために長期間にわたり行われた手順には、いくつかの安全上の懸念がありました。 3,4-ジクロロ-1,2,5-チアジアゾール(DCTDA)をモルホリン付加物に変換するプロトコルには発熱反応ステップが含まれており、ニートで(追加の溶媒を使用せず)実行されました。 リスクを評価するために、著者らは潜在的に危険な暴走反応を誘発するのに近い条件下で反応を実行しました。 試薬と生成物の熱安定性を調べ危険度をより明確にするために、示差走査熱量測定を使用しました。EasyMax HFCal(100 mL)で行った小規模な反応熱量測定の予備実験のおかげで、冷却の喪失によってどの時点で反応温度が上昇し、分解が誘発されるかを特定できました。 冷却不良のシナリオでは、この反応は高発熱性であることがわかりました。OptiMax HFCal(1 L)を用いた大規模な追加実験により、潜在的な分解に関するさらなる洞察が得られ、より高い生成物純度で熱的に安定した反応をもたらす実験パラメータ(攪拌速度、溶媒環境、試薬添加の順序など)の特定に役立ちました。
PATによる共沸乾燥プロセスの製造へのスケールアップ
Dance, Z. E. X., Crawford, M., Moment, A., Brunskill, A., & Wabuyele, B. (2020). Kinetics, Thermodynamics, and Scale-Up of an Azeotropic Drying Process: Mapping Rapid Phase Conversion with Process Analytical Technology. Organic Process Research & Development, 24(9), 1665–1674.
複数の固相と変化する液相の組成をともなう蒸留プロセスは、複雑な熱力学と反応速度が関与するため、そのプロセスを理解しスケールアップすることが難しい場合があります。 研究者が最も効率的なプロセスの使用を避けるのは、プロセスを再現するために必要な情報を得ることが難しいためです。 この研究では、製造規模への的確な移行に必要な知識を得るためにプロセス分析技術(PAT)、オフライン分析、プロセスモデリング、卓上実験を使用した、効率的な蒸留乾燥プロセスの開発と実装について報告しています。
2'-C-メチルウリジンは水から結晶化する医薬中間体であり、この物質がもたらす二水和固体は、蒸留乾燥パラメータに応じて半水和固体または目的の無水固体への相変換を経ます。 目的の無水固体は常温プロセス条件では安定しないため、従来のオフライン方法では測定が難しいプロセスになりました。 関与する反応速度をより正確に理解できるように、著者らは、複数のin-situ PATプローブを備えた自動OptiMaxラボ用リアクターで蒸留乾燥プロセスを実施しました。 in-situ FTIR分光計(ReactIR)を使用して、システム内の水分含有量をリアルタイムにモニタリングし、ラマン分光計を使用して固体形態の分析を行いました。 取得したデータ豊富な情報により、プロセスの相分布図を作成し、二水和相、半水和相、無水相間の形態変化の反応速度を特性評価することができました。 熱力学的、速度論的な理解を深められたことで、著者らは、目的の無水中間体を分離する蒸留プロセスを、研究室のグラム単位のスケールから製造施設の百キログラム単位のスケールへと移行させることに成功しました。