種晶は、過飽和を制御するために使用されるもっとも簡単な方法の1つです。 種晶とは(a)望ましい過飽和度で晶析を開始するため、
最終的に生成する結晶を定められた大きさにするために役立つのが、種晶の量・粒度を適切にすることです。 理論的には、結晶が真球で成長のみの晶析システムを仮定した場合、開始時に加えた結晶の大きさと量に基づき最終的な結晶の大きさを予測する単純なモデルを作ることができます。 1%の種晶を加えた晶析を考えてみましょう。 ここで1%というのは最終的に生成すべき全結晶量に対する割合としての1%です。 種晶と生成する結晶は同じ密度ですから、重量比は体積比に置き換えることができ、 次に体積比から直径比に換算します。
この単純なモデルは種晶の大きさと量が最終結晶の粒度分布にどのように影響するかを説明するには便利ですが、前提としている条件が現実にはほぼありえません。真球の結晶などほとんど存在しないばかりか、針状結晶ともなればその大きさを予測するにはかなり複雑なモデルが必要です。 また可能性がゼロではないとはいえ晶析が成長のみで進行することはまれです。 ある程度の核発生や摩耗はつねに発生しており、だからこそ効果的な種晶添加晶析の開発が必要となるのです。 リアルタイム顕微鏡を用いると、種晶添加操作に関わる状況を詳しく調べることができますので その例をご紹介します。 種晶を過飽和溶液に加えると(a)、種晶の結晶表面に核発生していることが分かります(b)。 時間がたつにつれて小さな結晶の「枝」が種晶から直角に成長することによる樹枝状成長が起きています(c)。 30分後には結晶の粒度分布および形状分布に二峰性が見られ、これにより晶析後のろ過や乾燥が困難になることが予想されます(d)。
晶析時の種晶添加メカニズムを視覚化することで、プロセスに関する情報を容易に得ることができます。
種晶を晶析プロセスに添加する時に考えるもう一つの重要な要因として、過飽和度が挙げられます。 冷却晶析においては、これは種晶添加温度によって過飽和度を考えることができます。過飽和度が高い状態での種晶の添加は、過度の二次核の発生など種晶プロセス自体が最終的な微小粒子の原因となってしまいます。結晶成長を望むのであれば、過飽和度の低い溶解度曲線近くで種晶を入れるのが賢い選択でしょう。右のグラフでは3つの異なる種晶添加温度の場合においてFBRM技術を用いたParticleTrackを使って晶析プロセスを比較した例です。各晶析について0µmから10µmの粒子を比較したところ種晶添加温度によって核化の度合いを比較することが可能です。最も低い種晶添加温度(高い過飽和度)ではプロセスの終わりにおいて最も核化が進行し最も微小粒子が多いという結果でした。
種晶添加にあたっての重要事項をもう一つ、それは種晶の調整や保管時に結晶が互いに付着し凝集体となっている可能性を考慮することです。種晶を添加した後に定温でのホールド時間が必要となるのは、種結晶を完全に分散させ、結晶の表面積を完全に利用可能とするためです。またそのホールド時間中に結晶が成長することにより、さらに表面積が増大し結晶が成長しやすくなるという効果もあります。右の図に種晶が完全に分散するまで4時間かかる様子をParticleTrackのプロセストレンドで観察した例を示しました。プロセスの一貫性と製品品質を確保するためには、前述した項目の他にも、この例のように種晶添加操作前後の重要なプロセス変数を注意深く特性評価することが肝要であることがわかります。
ここ数年で晶析は改善されてきていますが、種晶添加ステップには多くの課題が残されています。 このホワイトペーパーでは、種晶添加戦略を設計する方法と、種晶添加プロトコールを実行する場合に考慮する必要があるパラメータについて説明します。
晶析の単位操作で最適な結晶サイズと形状分布を目指し、制御することで、以下を実現することができます。