ラマン分光法とインライン分析

ラマン分光法は、光と物質の相互作用を利用しFTIRのように材料の構成や特性の詳細情報を得るための分子分光法です。 ラマン分光法による情報は光散乱プロセスから得られる一方で、赤外分光法は光の吸収に依存します。 ラマン分光法は、分子内と分子間の振動に関する情報をもたらし、 反応についてのより深い理解を可能にします。 ラマンとFTIRの両手法とも、分子の特定の振動に特有のスペクトル（「分子の指紋情報」）をもたらし、いずれも物質を特定するための有用な技法です。 一方でラマン分光法では、より低い周波数モード、および結晶格子と分子の骨格構造への知見につながる振動について、より詳しい情報が得られます。 

インラインのラマン分光法により、晶析プロセスのモニタリング、反応のメカニズムと反応速度を明らかにすることができます。 各種の分析ツールと組み合わせることで、分析結果に対する理解と最適化が可能になります。 

光が気体、液体、または固体中の分子と相互作用するとき、大半の光子は入射光子と同じエネルギーで分散または散乱します。 これを弾性散乱またはレイリー散乱と呼びます。 このような光子1000万個のうち約1個のごく少数の光子は、入射光子とは異なる周波数で散乱します。 このプロセスは非弾性散乱、またはラマン効果と呼ばれており、 1930年にノーベル物理学賞を受賞したC.V.ラマン博士による発見にちなんだ呼称です。 以来ラマン分光法は、医療診断から材料科学、反応分析に至るまで幅広いアプリケーションで利用されています。 ラマン分光法により分子振動に関する情報を得ることで、それがどのような組成を持ち、どのように周囲の他の分子と相互作用するかについて知見を得ることができます。

双極子モーメントの変化に着目するFTIRとは異なり、ラマン分光法では分子結合の分極率に着目します。 光と分子の相互作用は電子雲の歪みを誘発する原因になります。 この歪みは分極率の変化として知られています。 分子結合には、分極率の変化が生じる特定のエネルギー遷移があり、ラマン活性モードを引き起こします。  一例として、炭素-炭素、硫黄-硫黄、窒素-窒素同士の結合など等核原子の結合を含む分子では、光子がそれらと相互作用するとき分極率の変化が生じます。 これらはラマン活性スペクトルバンドを引き起こす結合の例ですが、FTIRでは確認されないか確認するのが困難です。

ラマンは本質的に弱い効果なので、ラマン分光光度計の光学コンポーネントには完全な適合性があり最適化されていることが求められます。 短波長のレーザーの場合、有機分子では蛍光の影響を受ける傾向が高まるので、固体レーザーダイオード（785nm）のような、より長波長の単色励起源が一般的に使用されます。  

ラマン分光法は、産業分野で次のような各種のアプリケーションに使用されています。

• 晶析 プロセス
• 結晶多形の識別
• 重合反応
• 水添反応
• 有機合成
• 生体触媒作用と酵素触媒作用
• 連続フローケミストリー
• バイオプロセスのモニタリング
• 合成反応

ラマン分光法とFTIRは、多くの場合、互換性があり、いずれも補完的な情報を得ることもできますが、実用面での違いもあり、それによりどちらが適するかが異なります。大半の分子対称性はラマン活性と赤外活性の両方に対応します。1つの特別なケースとして、分子に反転中心が含まれる場合があります。反転中心を含む分子では、ラマンバンドと赤外バンドは相互に排他的なので、結合はラマン活性または赤外活性のいずれかで両方にはなりません。1つの基本ルールとして、双極子の変化が大きい官能基はIRが適しており、一方で、双極子の変化が小さい、あるいは対称性が高く双極子の変化が実質的にない官能基はラマン分光法が適しております。

以下の場合、Ramanが適しています。

• 脂肪族と芳香環の中の炭素結合の調査が主な目的の場合
• FTIRでの確認が難しい結合（O-O、S-H、C=S、N=N、C=Cなど）
• 溶液中の粒子の調査が重要な場合（結晶多形など）
• 低周波数モードが重要な場合（無機-酸化物など）
• 水性媒体での反応を調査する場合
• 反応ウィンドウを通した観察が安全で容易な反応の場合（高圧触媒反応、重合など）
• 低周波数格子モードの調査が目的の場合
• 二相系、コロイド反応の反応開始、終点、生成物の安定性を調査する場合

以下の場合、FTIRが適しています

• 液相反応の調査
• 反応物質、試薬、溶媒、反応種が蛍光を有する反応
• 双極子の変化が大きい結合に着目する場合（C=O、O-H、N=Oなど）
• 低濃度の試薬と反応物質が反応する場合
• 溶媒のラマンスペクトルが強く、主要種のスペクトルを消してしまう反応
• 中間体が赤外活性である反応

ラマン分光法には多くの長所があります。ラマン測定装置では可視領域のレーザーを使用するので、光ファイバーケーブルを使用してサンプルを励起し、散乱光を捕捉できます。光ファイバーケーブルの長さはカスタマイズ可能です。可視光を使用するので、反応容器にはガラスまたは石英を使用します。これにより化学反応の研究では、例えば外部反応サンプルループまたはフローセル内で、ラマンプローブを反応に挿入すること、またはウィンドウを通してプローブでラマンスペクトルを捕捉することができます。後者のアプローチではサンプルストリームの汚染の可能性を除去できます。ウィンドウ材として石英またはハイグレードのサファイアを使用できるので、高圧セルを使用して触媒反応のラマンスペクトルを取得できます。触媒の研究では、触媒表面でのリアルタイムのin situ反応を調べるためにラマン効果によるオペランド分光が非常に有用です。ラマンのもう1つの長所として、ヒドロキシル結合はラマン活性ではないため、水系反応にもラマン分光が適している場合があります。ラマン分光法は非破壊と考えられていますが、一部のサンプルはレーザー照射の影響を受ける場合があります。ラマンの選択時の懸念点としては、サンプルがどの程度、蛍光の影響を受けるかどうか、ということです。ラマン散乱は弱い現象なので蛍光が信号を打ち消し、信頼性の高いデータ取得が難しくなる可能性があります。大抵の場合、この問題は長波長の励起光源を使用して緩和できます。

反応分析に関して、ラマン分光法は多くの官能基に高感度ですが、分子骨格の情報を得る場合は例外で、独自の指紋情報をもたらします。ラマン分光法では結合分極率を利用し、より低い周波数の測定が可能なので、結晶格子振動に敏感でありFTIRでは困難とされている結晶多形形情報を得ることができます。これにより、晶析などの複雑なプロセスにラマンが効果的に使用することが可能となります。

最新のコンパクトなラマン分光光度計はいくつかの基本コンポーネントから構成されており、その中にはラマン散乱を誘発する励起源としてのレーザーが含まれます。通常、最新のラマンには固体レーザーが搭載されており、波長は532nm、785nm、830nm、1064nmで構成されています。短波長なレーザーほどラマン散乱断面積は大きいので、結果としてラマン散乱は増大しますが、それに伴い蛍光の影響も大きくなります。 このため、ラマン分光システムの多くが785nmレーザーを備えています。レーザーエネルギーは、光ファイバーケーブルによってサンプルに伝達されサンプルから収集されます。ノッチフィルタまたはエッジフィルタを使用してレイリー散乱とアンチストークス散乱をカットし、残りのストークス散乱光は通常ホログラフィック格子の分散エレメントに伝わります。CCD検出器によって捕捉された光がラマンスペクトルになります。ラマン散乱では弱い信号が生じるので、ラマン分光光度計には光学的に完全に適合する高品質のコンポーネントを使用することが最も重要になります。

実験の連続データが得られると、反応速度、メカニズム、構造変化に関する重要な情報を得られる「分子ビデオ」を提示できます。従来このような分析は、主要な関心領域を抽出し波数の傾向を時系列で分析するための専門知識を持つ分光法の専門技術者によって実施されていました。 しかし、ソフトウェアの進歩（iC Raman 7の「Find Trends」など）に伴い、専門性の高い作業を自動化できるようになり、誰でも取り扱いができるようになりました。また、迅速、且つ正確に情報を抽出できるので、意思決定を迅速に行えるようになりました。

小型、高性能
ReactRamanはクラス最高の性能と柔軟性の高い設計を兼ね備えています。この分光光度計は小型、軽量で耐熱性が高く、卓越した性能であらゆる場所での分析ニーズに応えます。

迅速、正確な分析結果
In Situモニタリングに最適化されたReactRamanで得られる高精度、高感度のスペクトルは、iC Raman のOne Click Analytics­™によって分析結果に容易に変換できます。

統合されたプラットフォーム
中赤外線、粒子特性評価、自動合成装置を組み合わせ、反応全体の理解と制御を可能にします。

専門ノウハウの共有
当社は30年以上にわたり反応分析の専門知識を蓄積し、化学的な難問の解決に貢献する高性能ソリューションの開発に取り組んでいます。

ReactRamanは以下の製品とデータ通信することが可能です。

• ReactIR in situFTIR
• ParticleTrack/ParticleViewインライン粒子特性評価
• EasyMax、OptiMax、RX-10有機合成装置
• EasySamplerインライン自動サンプリング

これらのツールは、反応解析やプロセス開発用に特化して設計されており、iCソフトウェアとの組み合わせによってプロセス全体の理解と制御を可能にします。