熱分析 UserCom 42 内容
TAのヒント
- カーブの解釈 Part 5: TMAカーブ
ニュース
- 熱分析の新しいハンドブック
- 新しい水分計HC103
- FastTrack™ UV/VIS分光法
アプリケーション
- UV/VIS分光法とDSCによるオリーブオイルの品質管理
- はちみつのガラス転移温度への水の影響
- DSCカーブ解釈に役立つデータベース
- ゴムの組成の分析と同定
UV/VIS分光法とDSCによるオリーブオイルの品質管理
オリーブオイルは、ビタミンE、抗酸化物質およびモノ不飽和脂肪酸の含有率が高いために、「健康な」天然製品と呼ばれています。オリーブオイルは、さまざまな品質(エキストラヴァージン、ヴァージン、オリーブオイルなど)のものが市販されています。本稿では、2種類の異なる品質のオリーブオイルをUV/VIS分光法とDSCで比較します。
はじめに
地中海料理では、オリーブオイルを使用しないことは考えられません。加えて、モノ不飽和脂肪酸、ビタミンEおよび抗酸化物質の含有率が高いために、オリーブオイルは「健康な」オイルとされています。低温で圧搾したエキストラヴァージンオリーブオイルが最高品質です。明確な品質表示のないオリーブオイルは通常精製したオリーブオイルとエキストラヴァージンまたはヴァージンオリーブオイルを混ぜたものです。
オリーブオイルの品質管理では、200nm~300nmの波長域のUV吸光度測定が利用されます。このスペクトル範囲では、UV光が共役C-C二重結合、特にジエンとトリエンによって吸収されます(図1参照)。この二重結合は、エキストラヴァージンオイル中に酸化プロセスの結果として発生します。
図1: オリーブオイル中に酸化の結果として生じる共役C-C二重結合 |
このため、オリーブオイルの品質は次の方法で簡単に検査できます。
- 200nm~300nmのスペクトル範囲の吸収が小さい場合は、高品質のエキストラヴァージンオイルであることを意味する
- 吸収が大きい場合は、より低品質のオリーブオイルである
国際オリーブオイル協会(International Olive Council ; IOC)は、UV/VIS分光法によるオリーブオイルの品質管理について、守らなければならない3つの基準を定めて、これによりオリーブオイルにエキストラヴァージンのラベル表示を許可しています。
この基準は4つの異なる波長λ(232nm、266nm、270nm 、274nm)、での吸光係数Kλに基づきます。エキストラヴァージンオリーブオイルは、各波長で表1に定めた基準を満たさなければなりません[1, 2]。
表1: エキストラヴァージンオリーブオイルが満たさなければならない、国際オリーブオイル協会で定められた基準 |
Kλ = Aλ/(c·L) (1)
および
ΔK = K232 – ((K266 + K274)/2) (2)
Aλ = 波長λの場合の吸光係数、
c = 溶液中のサンプルの濃度、
L =キュベットの光路長
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参考資料
[1] EEC Regulation 2568/91 Annex IX (http://eur-lex.europa.eu/).
[2] International Olive Council, IOC COI/T20/Doc.no.19/Rev.3 2010 (www.internationaloliveoil.org).
はちみつのガラス転移温度への水の影響
はちみつは、パンに塗ったり、甘味料として人気があります。クリーム状で、結晶化していない、またはわずかに結晶化したはちみつの場合、塗りやすさはガラス転移温度によって異なります。はちみつのガラス転移温度は、はちみつ内の水の割合によって異なります。本稿では、この関係をスイスの花はちみつの例で調べます。
はじめに
はちみつは、主に異なる種類の糖(フルクトース 27%~44%、グルコース 22%~41 %)と水(15~20%)で構成される天然物です。これに、着色料、香料だけでなく、わずかな量の花粉、プロテイン、アミノ酸、ビタミンがあります[1,2]。正確な組成は、みつばちが蜜を集めてくる花によって決まります。
砂糖は、大量の水と水素結合できます。この結合水が砂糖と共にネットワークを形成します。はちみつ内のフルクトースとグルコースの比率が、はちみつの結晶化のしやすさとそれに伴う粘度を決めます。
一般には、グルコース比の高いはちみつ(菜種はちみつなど)は結晶化しやすくなります。結晶化したはちみつは粒状になり、塗りにくくなります。またクリーム状のはちみつは、温度がガラス転移温度を下回ると、塗れなくなります。
はちみつのガラス転移温度は、水分量によって異なります。本稿では、DSC測定を利用して、クリーム状のスイスの花はちみつでこの関係をどのように調べるのかを示します。
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参考資料
[1] http://www.bee-info.com/honey/honey-ingredients.html
[2] https://en.wikipedia.org/wiki/Honey
DSCカーブ解釈に役立つデータベース
測定データの解釈にデータベースを利用することは、今日、分析化学では広く普及しています。熱分析においては、測定カーブの解釈にデータベースを使用することはこれまで一般的ではありませんでした。以下では、600以上の一般的な物質のDSCカーブ、物性値およびFTIRスペクトルが格納されているデータベースを紹介します。このデータには約120の異なる種類のポリマーが含まれています。
はじめに
赤外分光法やGC/MSなど多くの分析技術で、測定されたスペクトルの解釈とそのためのデータベースを利用した物質の同定が行われています。リファレンスカーブまたは物性値(ガラス転移温度や融解温度、融解エンタルピーなど)によるDSCカーブの解釈は、非常に難しい作業です。DSCカーブの形状も解析された物性値も、昇温速度、サンプル量、サンプルの熱履歴によって変わります。このため、データベースをたとえば、不明なポリマーの同定に使用することはかなり困難です。
しかし、物性値やDSCリファレンスカーブが格納されているデータベースはDSC測定の解釈に役立つ場合もあります。そのようなデータベースが、昨年、Lüdenscheidのポリマー研究所で開発されました。
このデータベースには、物性値のほかに標準的な条件で測定されたさまざまなポリマーのDSCカーブが含まれ、さらに各物質に対応するIRスペクトルが格納されています。
以下では、DSCカーブ、物性値およびIRスペクトルを利用してポリマーを同定する方法を示します。
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ゴムの組成の分析と同定
ゴムの組成およびガラス転移温度を TGA と DSC で調べました。この試験では、ゴムサンプル(これは純粋な NBR ゴム(ニトリルブタジエンゴム)とラベルに記載されていましたが、実際には何らかの混合物)を用いました。この論文では、このゴムの各種組成の分析と同定について説明します。
はじめに
あるゴムの熱特性、ポリマー含有量およびガラス転移温度を TGA および DSC で求めました。このゴムはNBRのみから成っていると思われていました。しかし、DSC分析では2つのガラス転移が見られ、これはDMA によっても確認されました。この結果から、材料が実際に は2 種類のゴムの混合物であることを示しています。
TGA測定では、特定の分解反応をよりよく理解し、TGA 分析中に分解によって生じるガス種を特定するために、赤外分光計(FTIR)または質量分析計と接続する場合がよくあります。いくつかの場合に、ガス状の分解生成物を MS または FTIR で正確に特定することが難しいことがあります。成分が複雑なポリマーまたはビチューメンに由来することがあるからです。同時に発生したガスを特定することが、ほとんどできないこともよくあります。
より確実に、ゴムの成分を検出するために、TGA を GC/MS(質量分析計に接続したガスクロマトグラフ)に接続しました。TGA の GC/MS への接続のその他の用途例には、不良品の分析、他の製造元の使用部品の評価、新製品の特許侵害に関する調査などがあります。
TGA 分析中に発生するガスの組成に関する情報を最大限獲得するために、TGA と GC/MS の間に貯蔵インターフェイス IST 16 を取り付けました。この専用のシステムにより、TGA 分析中に分解生成ガスの 16 種類のグループをユーザー定義の時間または温度で収集して、保存し、最後にガスクロマトグラフに注入することができます。
この手順では、分解生成物を最初に GC カラムで分離して、次に MS で特定するか、必要に応じて質量分析します。TGA/IST16/GC/MS の組み合わせは、図 1 で見ることができます。
図 1: TGA/IST16/GC/MSの接続 |
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