熱分析 UserCom 37内容
TAのヒント
- TGA/DSC 1 による吸着実験
ニュース
- STARe システムでのモバイル通信の活用
- メトラー・トレドの最新ミクロおよびウルトラミクロ天びん
- サンプルの完全な識別を
アプリケーション
- 飛び跳ねる粘土の奇妙な行動
- 3 つの官能基を有するエポキシ樹脂の硬化挙動の評価
- DSC を用いた相変化材料の新しい分析手法の開発
- 熱分析によるオキソ生分解性ポリマーのキャラクタリゼーション
飛び跳ねる粘土の奇妙な行動
ドイツ語で飛び跳ねる粘土という名前の「Horst die Hüpfknete(ホルスト)」(図1)は子供のおもちゃですが、この材料は室温の下で興味深い2 つの特性を示します。その1 つは「ホルスト」が簡単に変形、延伸でき、粘性液体のように流動性があるという点です。一方で、この粘土をボールの形に丸めて机から床の上に落とすと、テニスボールのように跳ね上がる弾性的な挙動を示します。
はじめに
一見矛盾しているように映るこの挙動は、どのように説明することができるのでしょうか?本章では、この問に対する答えをご紹介します。
[…]
3 つの官能基を有するエポキシ樹脂の硬化挙動の評価
本稿では、高度に架橋したエポキシ樹脂の硬化挙動について、従来のDSC とTOP-PEM を用いて評価しました。TOP-PEM を用いると、従来のDSC 測定よりもずっと簡単に硬化挙動を調査できます。また、完全に硬化したサンプルのガラス転移温度はTOP-PEM のみで決定できます。
はじめに
エポキシ樹脂は架橋したポリマーで、とりわけ接着剤、表面コーティング剤、繊維強化複合材、あるいは珪酸塩鉱物で強化したポリマーナノコンポジット(PLS nanocomposites,polymer layered silicate nanocomposites)などのマトリックスとして使用されます。
エポキシ樹脂として広く使用されているものの1 つに、2 つの官能基を有するビスフェノールA ジグリシジルエーテル(DGEBA)があります。しかし、宇宙航空分野では250 ℃まで耐えることのできる架橋複合材料が必要とされます。
こうした場合、3 つの官能基能を有するトリグリシジル p-アミノフェノール(TGAP)が適しています。この樹脂は、ジアミンとの反応により非常に架橋化された構造を持ちます。
リジッドな3 次元構造は高いネットワーク密度を有し、そのため、DGEBA よりもガラス転移温度が高く、より高温に耐えるポリマーが得られます。ポリマーの硬化挙動を評価する一般的な技術として、従来DSC が用いられ、そこでは等温・昇温メソッドが使用されています。
しかし、TGAP の検討に際し、この手法は以下の問題を含んでいます。
- 架橋反応に伴う大きな反応熱のため、最終的なガラス転移温度以下の温度において複数の等温ステップを用いてTGAP の硬化を行います。その際、硬化ステップごとに材料はガラス化し、この硬化プロセスをできる限り効率的に進めるためには、ステップごとのガラス化時間(= 材料が一定の温度でガラス化するまでに要する時間)に関する知識が不可欠です。とはいうものの、従来のDSC でガラス化時間を決定するには、実験上相当の時間と手間が必要です。
- 硬化したTGAP/DDS のガラス転移は従来のDSC では測定できません。これは架橋密度が高いためガラス転移の前後における熱容量の変化が小さすぎ、その結果、DSC では検出できないからです。そのため、文献ではDMAでガラス転移温度を求めています[1、2]。
本稿では、この問題をTOP-PEMを用いていかに効果的に解決できるかをご紹介いたします。
[…]
参考資料
[1] Becker, O.; Cheng, Y-B.; Varley, R.J.; Simon, G.P.: Layered silicate nanocomposites based on various high-functionality epoxy resins: The influence of cure temperature on morphology, mechanical properties, and free volume. Macromolecules 36 (2003) 1616 –1625.
[2] Frigione, M.; Calò, E.: Influence of an hyperbranched aliphatic polyester on the cure kinetic of a trifunctional epoxy resin. J. Appl. Polym. Sci. 107 (20 0 8) 174 4 –175 8
DSC を用いた相変化材料の新しい分析手法の開発
今日、建造物内を快適にするための室内空調は、居住スペースでも商業スペースでもエネルギー消費量の増大をもたらしています。蓄熱(TES; Thermal energy storage)は、膨大なエネルギー消費を軽減する1 つの手段です。相変化材料(PCMs; phase change materials)は、高い蓄熱容量があり、これに適した材料として研究が進められています。
はじめに
著者らは、ポリマーマトリックスに組み込まれた相変化材料(PCM)を開発しました。しかしながら、DSC を用いてこの材料の熱特性を測定しようとした際、問題が生じました。ポリマーマトリックスとPCM の熱効果がオーバーラップしたのです。
そこで新たな測定手法を開発しました。リファレンスパンとして、通常使用される空のサンプルパンの代わりに、ポリマーマトリックスを入れたサンプルパンを、使用しました。
[…]
熱分析によるオキソ生分解性ポリマーのキャラクタリゼーション
プラスチックのもつ大きな問題の 1 つに長期にわたる安定性があります。この安定性により、プラスチックは分解することなく、長年にわたって環境に負荷を与えてきました。最近になり、自然環境下で短時間で分解するポリマーを開発するためにさまざまな実験が開始されました。
はじめに
生分解性ポリマーの生産には2種類のアプローチがあります。最初のアプローチは使用後に素早く(生分解により)元の原材料に戻るとうもろこしや小麦といったバイオ材料から、ポリマーを生産するという方法です。
もう1つは、一般的なポリマー(例えばポリエチレン)を微生物によって完全に分解されるように加工するアプローチです。本章では、後者のオキソ生分解性ポリマー(oxo-biodegradable polymers)と呼ばれるポリマーを取り上げます。
触媒として少量の塩を混合することでポリマー鎖の酸化を促します。酸化はポリマーが酸素雰囲気にさらされて初めて起こります。そのため、埋め立て処分場など無酸素状態で処理された場合、その分解速度は従来のポリマーより速くなることはありません。混合される塩は触媒として機能するだけの分量ですから、これが環境に影響を及ぼすことはありません。また、塩は、鉄、マグネシウム、マンガン、亜鉛やニッケルといったもので、自然界では金属タンパク質として存在します。
[…]