熱分析 UserCom 33内容
TAのヒント
- ポリマーの熱分析、第 3 部:熱硬化性ポリマーの DSC(示差走査熱量測定)
アプリケーション
- 熱的危険性のある物質の迅速試験
- ゾレドロン酸の熱分析
- モデルフリーキネティックス(MFK)によるアジ化物の反応キネティックスからの安全性データの決定
- 粉乳の熱分析
- 熱膨張率の変化(TMA)における伸縮性の挙動測定
- ホットメルト接着剤の TMA 分析
熱的危険性のある物質の迅速試験
示差走査熱量測定(DSC)は化学反応の反応エンタルピーと反応速度を測定するのに役立ちます。この結果はプロセス設計、化学合成と分解反応の危険性評価、および熱力学的、反応速度論的な計算を行う場合に重要です。ある生成物が熱的に不安定か、もしくは、爆発の危険性(熱的暴走)を示すかどうかは早期に見分けなければなりません。少量の物質で DSC と TGA を用いてスクリーニング測定を行うことで、潜在的な危険性評価に必要なデータが得られます。
はじめに
化学物質および化学反応の危険性評価は、実験室および製品における持続的な分析業務です。この関連における深刻な問題は、サンプル物質とその貯蔵の取り扱いにおいて、温度がコントロールできずに上昇する危険があることです。
熱暴走と、それに引き続く大きな損害をもたらす爆発のリスクは以下の場合に生じます。
- 反応エンタルピーが大きく、発熱をともなう場合
- 温度上昇の速度が高いか、自然加速する場合
- 分解や蒸発によって、気体状の生成物が発生する場合
- 反応器が高圧もしくは高温に耐えられない設計だった場合
- さらに火災ないし環境汚染といった二次被害が伴い得る場合
危険性は上で言及した点に関連してのみ評価されるわけではなく、それらの作用の現れる可能性、および考えられる損害の大きさも考慮されねばなりません。このようなリスク分析において、化学合成ないし分解反応の反応エンタルピーを測定することが以下の調査の起点となります。注目されるのは当然高いリスクです。
しかしながら、過去の経験から、潜在的に危険性のあるものだけでなく、あらゆる化学物質とプロセスが調査されねばならないことが分かっています。一見無害なプロセスには、合成反応、乾燥や研削のような一般的な操作、貯蔵があります。
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ゾレドロン酸の熱分析
ゾレドロン酸は様々な医薬品に原薬として用いられています。本稿では、マイクロスコピー DSC と TGA-MS を用いてゾレドロン酸水和物の熱的挙動を調べました。
はじめに
ゾレドロン酸(もしくはゾレドロン酸塩)は骨粗鬆症や骨転移の治療薬の原薬として、様々な医薬品(例えば、Zometa®、Aclasta®)に用いられています。ゾレドロン酸は無水物、一水和物、1.5 水和物、3 水和物として存在しますが、インターネット上では無水物の融点は 193℃ から 204℃ の間という値が示されており(http://www.lookchem.com/Zoledronic-Acid/)、分解温度としては239℃という値(http://www.pipharm.com/products/msds/msds-28079.pdf)が示されています。
ここではマイクロスコピー DSC と TGA-MS を用いて、ゾレドロン酸水和物の熱的挙動を検討しました。
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モデルフリーキネティックス(MFK)によるアジ化物
アジ化物の分解反応の場合、反応エンタルピーは比較的大きなものになります。DSC により、当該物質の熱安定性と分解反応のキネティックスを調べます。
アジ化物の構造と特性
アジ化物は、アジ化水素酸 HN3 の塩かつ有機化合物です。その構造が図 1 に示してあります。R は金属イオン(例えば、Na+)のことも、炭化水素鎖のこともあります。
図 1:アジ化物の構造。 |
アジ化物の一例が、特に「エアバッグ」のガス発生剤として使用されるアジ化ナトリウム(NaN3)です。分解は加熱または電気パルスにより引き起こすことができ、それにより、急速に脱窒素が行われます。よく知られている代表的な有機アジ化物として、抗レトロウイルス物質の仲間である薬物アジドチミジンがあります。この調査の一環として、2 種類の有機アジ化物 C14H19N3O6 (C14) と C20H30N6O14(C20)を分析し、上記物質の熱挙動を決定し、その反応性に関する予測を行いました。
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粉乳の熱分析
粉乳の主成分は非晶質ラクトースです。非晶質ラクトースは高い吸湿性を有しています。粉乳を開けっ放しで放置すると、吸湿してかたまりだらけになります。粉乳中のラクトースが吸湿することで結晶化も起こり、粉乳を使った製品の香りや味が変化することになります。本稿では、粉乳中のラクトースの挙動を湿度 TGA 測定および DSC 測定を利用してどのように評価できるかについてご紹介します。
はじめに
牛乳の成分は 87.5% の水分、4.8% の 炭水化物(主にラクトース)、3.5% のタンパク質(主にカゼイン)、0.7% の微量元素とビタミン、そして 4.2% の脂肪です。ミルクから水分を取り除くと粉ミルクが「残滓」として残ります。この際、様々な粉ミルクが区別されます。重要な粉ミルクの種類の大まかな構成については表 1 に示します。
表 1:異なる 3 種類の粉乳の成分( 情報元: www.agroscope. admin.ch/trockenmilch/01920)。 |
その加工条件では、ラクトースはどの粉乳でも非晶質状態にあります。そのため粉乳は吸湿性を有します。湿気を吸収するとラクトースのガラス転移温度は、室温以下にさがります。この時ラクトースは軟化し、粉乳は凝固します。
その吸湿量が十分に高くなればラクトースは結晶化し、粉乳の使用されている製品の風味や密度に変化が生じます。本稿では湿度 TGA 測定と DSC 測定を使用して、粉乳中のラクトースのガラス転移温度や結晶化挙動において湿度がどう影響するのかをご説明します。
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熱膨張率の変化(TMA)における伸縮性の挙動測定
TMA を使用したファイバーやフィルムの膨張および収縮挙動は一般的に扱い難いとされています。本稿では、この評価は根拠がないことを示します。すなわち、応力ひずみ測定は再現良く行うことができ、その測定により物質の収縮挙動について信頼できる情報が得られます。
はじめに
ファイバーとフィルムの収縮挙動はTMA を用いて容易に調査することができます。
このような実験では持続的に引張負荷を与えられたサンプルを加熱し、温度によるサンプルの長さを測定します。この際以下の疑問が生じます。
- 低荷重を校正することができるのか。
- サンプルに与えられる力はどのくらい正確なのか。
- 収縮プロセスの測定でどの程度の再現性があるのか。
- 加えられる力に対して収縮挙動はどの程度の感度があるのか。
本稿では、これらとその他の問題について述べます。
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ホットメルト接着剤のTMA分析
Hot glues とも呼ばれるホットメルト接着剤が特に好まれているのは、溶媒を使用しておらず、使用が簡単なためです。この接着剤は、化学的には、ポリアミド、ポリウレタンエラストマー、ポリエステルエラストマーといった熱可塑性ポリマー原料をベースとしています。特定のアプリケーションに使用する上で、その溶融挙動やゲル化点が非常に重要となります。それらは TMA 分析によって評価可能であり、以下にその例を示します。
はじめに
TMA 分析では、一定の力をかけている間のサンプル の寸法変化 を、時間ないし温度の関数として測定します。 [1] 測定中、力は通常サンプル表面に下ろしたプローブから加えられます。TMA 測定において、サンプルの膨張や収縮を検出するためには弱い力を、サンプルの軟化を観察するためには強い力を用います。[2]
さらに、ダイナミックロード TMA(DLTMA)と呼ばれる測定も可能で、その測定では力の強さは周期的に、例えば小さな力と大きな力の間で振れるように変化させます。 [3] 結果として得られる測定カーブの振幅が小さいほど、サンプルの弾性も小さくなることが分かります。
この記事では、ガラス転移、軟化、溶融の性質を明らかにするために高い力でのホットメルト接着剤のTMA 測定が行われています。さらにサンプルのゲル化点を得るために DLTMA 測定が使用されています。ここで、ゲル化点はサンプルが軟化する温度として定義され、最終的には接着前の固いサンプルから接着温度までが分かります。
今日、接着剤には様々な種類があり、例えばアクリル接着剤、ゴム接着剤ないしホットメルト接着剤等です。ホットメルト接着剤はもともと接着力のない合成樹脂で、約180℃ まで熱すると融解させることができます。この接着剤は熱い時に軟らかく、べとつきますが、冷えると固まり、室温では高い接着性が得られます。高温で樹脂が溶融することから「ホットメルト」と名づけられました。
ホットメルト接着剤は幅広い分野に使用することができます。例えば、食品産業では梱包用の接着剤、服飾産業での接着剤、あるいはおむつの製造にさえ使用されています。また、棒状で使用される以外にも、吹き付けたり、浸したりする方法でも用いることができます。
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参考資料
[1] PET, Physical curing by Dynamic Load TMA, UserCom 5, 15.
[2] Georg Widmann, Interpreting TMA curves, UserCom 14, 1–4.
[3] Determination of curing behavior us - ing TMA/SDTA, UserCom 7, 16–18