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熱分析アプリケーションマガジン UserCom 30 (日本語版)

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UserComは、熱分析に関わる研究者向けのアプリケーションマガジンです。​

熱分析 UserCom 30(日本語版)
熱分析 UserCom 30(日本語版)

熱分析 UserCom 30内容

TAのヒント

  • ラボ日常における測定技術上の概念とその意味、第2部:測定の不確かさ

ニュース

  • エクセレンス HP DSC 1
  • DSC顕微鏡観

アプリケーション

  • 樹脂の非等温硬化の間のガラス化と脱ガラス化に関するTOP-PEM実験
  • ISO 18373による硬質PVCの品質管理
  • 薄膜多層フィルムのDSC、TMA測定および顕微鏡観察
  • アモルファス合金のナノ結晶化のキネティックス
  • ポリマー製スライドベアリングの品質保証例

熱硬化樹脂の非等温硬化の間のガラス化と脱ガラス化に関するTOP-PEM実験

本稿では、熱硬化樹脂の非等温硬化の間のガラス化と脱ガラス化をTOP-PEM実験により調べます。TOPPEMは、メトラー・トレドが開発した新しい温度変調技術です。[1]。前UserCom 29記載、[熱硬化性樹脂の等温硬化の間に発生するガラス化に対するTOP-PEM測定]を参照ください。

はじめに

エポキシ樹脂の硬化の間、樹脂の分子は互いに化学的に網状結合します。これにより、密な網状組織が生まれ、材料の物理的特性が変化します。硬化反応の前、樹脂は液状であるが、硬化過程の後は、網状結合した固体になっています。硬化反応の開始時、その速度は化学反応速度論に従ってコントロールされています。反応の進行につれて網状結合度は増大し、系のガラス転移温度(Tg)は上昇します。

エポキシ系を十分に高い速度で昇温し続けると、瞬間サンプル温度はますますその系の現実のガラス転移温度より高くなっていきます。この種の実験の終了時、この系は完全に硬化し終わっており(当初0 であった網状結合度が今や1)、ガラス転移温度はその可能な上限値(Tg∞)に達します。

一方、この系を遅い速度で昇温すると、この系の現実のガラス転移温度が瞬間サンプル温度に到達できます。この場合、この系は化学反応の結果として"ガラス化"します。この時点から、硬化反応の速度は、もはや反応速度論によって制限されるのでなく、反応相手の移動度によって制限されることになります。

反応に関与した分子の移動度は、ガラス化(ビトリフィケーション)によってほぼ完全に失われます。これにより、硬化反応は一気に緩慢になり、事実上停止する。系がTg∞ より低い温度で等温硬化する時も、同じ過程をたどります[2, 3]。

等温硬化と対照的に、非等温硬化の場合はガラス化の後に脱ガラス化が行われます。これが起こるのは、サンプル温度が現実のガラス転移温度を再度超えた時です。この場合、分子は自らの移動度を取り戻し、反応を終わりまで続行できます。

樹脂の非等温硬化は、これまで度々、温度変調DSC を使って1 つの周波数で測定されています[4 ~ 6]。ガラス化と脱ガラス化の周波数挙動は、誘電緩和分光分析[7] または機械分光分析(例えば、ねじり振り子を使った[8])によってすでに詳細に調べられています。

ガラス化と脱ガラス化の周波数依存性も、従来の温度変調DSC(ADSC)を使って測定できます。

とはいえ、周波数ごとに新たな実験を通常極めて遅い昇温速度で行わなければならないので(サンプル測定とブランク曲線が必要)、それは実に手間と時間がかかります。加えて、実験のたびに(すなわち、周波数ごとに)新たなサンプルを準備しなければなりません。ここで言うサンプルは反応系のことであるから、これは貯蔵できません。両反応成分の混合によっていやおうなく多様なサンプルが生まれ、このことが実験上の不確かさを増幅させます。本稿では、非等温硬化過程におけるガラス化と脱ガラス化の周波数挙動がTOPPEMを使ってどのように調べられるかを示します。ガラス化と脱ガラス化の周波数挙動から、緩和時間が温度にどのように左右されるかを査定します。このことが、ガラス転移を理解する上で重要となっています。

[…]

文献

[1] Schawe, J.E.K.; Hütter, T.; Heitz, C.; Alig, I.; Lellinger, D.: Stochastic temperature modulation: A new technique in temperature-modulated DSC. Thermochim. Acta 446 (2006) 147−155.
[2] Fraga, I.; Montserrat, S.; Hutchinson, J.: Vitrification during the isothermal curing of a thermoset studied by TOPEM® . UserCom 29, 17–20.
[3] Fraga, I.; Montserrat, S.; Hutchinson, J.: Vitrification during the isothermal cure of thermosets. Part I. An investigation using TOPEM® , a new temperature modulated technique. J. Thermal Anal. Calorim. 91 (2008) 687−695.
[4] Van Assche, G.; Van Hemelrijck, A.; Rahier, H.; Van Mele, B.: Modulated differential scanning calorimetry: non-isothermal cure, vitrification, and devitrification of thermosetting systems. Thermochim. Acta 286 (1996) 209−224.
[5] Montserrat, S.; Calventus, Y.; Colomer, P.: Vitrification and devitrification phenomena in the dynamic curing of an epoxy resin with ADSC. Usercom 11, 17−19.
[6] Montserrat, S.; Martín, J. G.: Non-isothermal curing of a diepoxidecycloaliphatic diamine system by temperature-modulated differential scanning calorimetry. Thermochim. Acta 388 (2002) 343−354.
[7] Montserrat, S.; Roman, F.; Colomer, P.: Vitrification, devitrification, and dielectric relaxations during the non-isothermal curing of a diepoxy-cycloaliphatic diamine. J. Appl. Polym. Sci. 102 (2006) 558−563.
[8] Wisanrakkit, G.; Gillham, J. K.: Continuous-heating transformation (CHT) cure diagram of an aromatic amine/epoxy system at constant heating rates. J. Appl. Polym. Sci. 42 (1991) 2453−2463.

ISO 18373による硬質PVCの品質管理

加工温度とゲル化度は、硬質PVCの機械的安定性と破壊挙動に決定的な影響を与えます。最大プロセス温度は融解ギャップとして現れ、ゲル化度は、基本的には、Tp よりも低温で融解する結晶の融解エンタルピーによって決定されます。DSC は広く普及している方法で、両数値を簡単に決定できます。規格 ISO18373 は、硬質PVCパイプのサンプル採取と測定に関する条件を定めており、さらに、その他の材料も適宜テストすることができます。

はじめに

ポリ塩化ビニル(PVC) は、ほぼ60年にわたって、特にパイプ、異形材、フォイル、絶縁材用に使用されてきました。硬質PVC (PVC-U) は給水管のような長寿命製品に特に適しています。2001 年には全世界で2800万トンを超えるPVC が製造されています[1]。ヨーロッパでは、あらゆる種類のパイプ( 例えば、給水管、下水管およびガス管) の半分以上が硬質PVC 製です。例えばパイプへのPVC の使用の論拠は以下のようなものです [2]。

  • 寿命の長さが実証されており、さらなる寿命延長の試みが続けられています。
  • PVC パイプはその他の材料製のものより軽いのですが、それにもかかわらず、十分な強度と耐久性と可撓性を持っています。設置も簡単で、その他の材料との相性もあります。
  • PVC は耐食性です。表面が平滑であるために、パイプの流れ抵抗は小さくなっています。
  • PVC 製品には優れた費用対効果があります。
  • PVC はリサイクルが可能であり、材料特性もほぼそのまま維持されます。これに対して、問題があるのは燃焼効率( 熱リサイクル) です。使用済み材料を再生し、再利用するために多大な努力が行なわれています。これに大規模で成功すれば、エコバランスも良好になります。

[…]

文献

[1] Rogério P. Marques, José A. Covas, Processing Characteristics of U-PVC Compounds, Firmenschrift von CIRES S.A. (Companhia Industrial de Resinas Sintéticas), Estarreja, Portugal, 2003.
[2] www.pvc4pipes.org

薄膜多層フィルムのDSC、TMA測定および顕微鏡観察

食品産業における包装材は、保護、保存適性、輸送および引裂強さのような機能に加えて、商業的な手段のとしての役割も果たしています。包装材は通常、複数の薄いポリマーを重ねたフィルム(多層フィルム)からできており、ポリエチレン、ポリプロピレンまたはポリアミドのような材料が使用されます。これらのポリマーは異なる融解挙動を示すことから、DSCまたは TMA測定により様々な層の組成に関する情報を得ることが可能です。本論考においては、DSCおよび TMA測定を通じて、0.1 mm の薄膜多層フィルムを調査します。様々な層、ポリマーの性質および層の厚さに関するデータを得るために、測定条件を変え、最適化を行います。さらに、TMAの結果を検証するため、層厚さについては、顕微鏡観察を行います。

はじめに

多層フィルム ( 無色透明) について、様々な技術 (DSC, TMA, 顕微鏡観察) により、その融解挙動と個々の層の厚さを調査するものとします。さらに、これらが一致した結果となるかどうかを検証します。

ポリエチレン (PE) は、エチレンの重合化により製造される熱可塑性プラスチックです。ポリオレフィンのグループに入り、その最も重要な利用分野はケーブル絶縁または包装材です。ポリエチレンの多成分フィルムは機械的および化学的安定性をもたらすとともに、水の吸収を防ぎます。融解挙動が異なる高分子および超高分子PE には の他に以下のようなものがあります[1]。

  • PE-LD: 強分岐ポリマー鎖、低密度(low density)、融点: 110 ℃ .
  • PE-LLD: 線状 PE、低密度 (linear,low density)、融点: 123 ℃ .
  • PE-HD: 弱分岐ポリマー鎖、高密度(high density)、融点:135 ℃

文献

[1] Adolf Franck-Kunststoffkompendium, Vogel Fachbuch, 2000

アモルファス合金のナノ結晶化のキネティックス

アモルファスFe-Si-B合金のナノ粒子の結晶化に関する反応速度論(キネティックス)の研究を行います。Fe-Siナノ結晶子の構造が材料の軟磁性特性を決定します。DSCにより、アモルファス相からの結晶化キネティックスを研究します。Advanced Model Free Kinetics(AMFK) を利用して、見掛けの活性化エネルギーを転化率(Conversion)の関数として算出し、この結果から、複雑な多段階結晶化プロセスを逆推論します。

はじめに

軟磁性素材は、磁界内で磁化しやすく、したがって、わずかなヒステリシスを持っている強磁性材料です。このような材料は、サイズが小さく、損失の少ない組合せ回路、最適化信号伝送装置およびコンパクトな磁気増幅器チョークのような新しい革新的な電気コンポーネントにおいて使用されます。超微結晶構造が形成されれば、強磁性材料は優れた軟磁性特性を獲得できます。一例が、粒子極限が10 nm ~ 15 nm の Fe-Si 結晶子です。そのような構造は、添加されるCu と Nb の割合がわずかであるアモルファスFe-Si-B 合金の結晶化の際に形成されます[1]。

最初に提案された合金の組成式は Fe73.5Si13.5B9Cu1Nb3 (at%) です。急速な凝固により、典型的には厚さ約20 μm のバンドとして存在するアモルファス金属ガラスが得られます。

ナノ結晶構造は、500 ℃ ~ 600 ℃の間で調質することによって得られます。その際、典型的な粒径が10nm ~ 15 nm で、アモルファスマトリックスの中に存在するFe-Si 粒子が形成されます。結晶子の間隔は約1 ~ 2 nm です[1]。

アモルファス合金の結晶化キネティックスを知ることにより、目指す結晶構造の調整や特性の最適化の新しい可能性が生まれてきます。アモルファス合金の結晶化のプロセスは複雑なので、例えば、Avrami のモデルを使用するモデル適応では、ナノ結晶化の記述は不可能です[2]。したがって、本論文では、モデルなしキネティックスソフトウエアAMFK によりナノ結晶子の結晶化の研究を行います。結果の詳細な検討と各種の結晶化モデルとの比較は参考文献[2]に公表してあります。

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文献

[1] G. Herzer in K.H.J. Buschow (Ed.) Hanbook of Magnetic Materials, Vol. 10, Elsevier, 1997, 415−462.
[2] H. A. Shivaee, H.R.M. Hosseini, Thermochimica Acta, 494 (2009) 80–85.

ポリマー製スライドベアリングの品質保証例

実例により、どのようにすれば DSCおよびTGA測定によってスライドベアリングの品質上の問題を特定し、取り除くことができるかを示します。

はじめに

ある高級耐久消費財メーカーで、突然クレームが頻発するようになりました。原因は、プラスチックスライドベアリングとして使用される射出成形部品でした。調査の結果、スライドベアリングの供給業者を変更するまでは事態の改善は全くなかったことが分かりました。外部ラボにおける、DSC を用いた予備試験の結果は、使用されている材料がスライドベアリングの良否にかかわらず、同じポリマーであると結論付けられていました。その結果、問題の原因はそれ以外の影響にあるとされ、短時間での問題解決は不可能であるように思われたのです。.

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ノウハウ