熱分析 UserCom 17内容
TAのヒント
- 様々な熱分析手法によるガラス転移温度測定、パート1:概論
ニュース
- STARe V8.00 ソフトウェア
アプリケーション
- 改良TGAによる動的水蒸気吸収プロセスの測定
- 先進的モデルフリー反応速度論ソフトウェアを用いたプリプレグの可使期間の決定
- 骨折治療の代替品としてのポリ-ε-カプロラクトン-ポリテトラハイドロフラン共重合樹脂
- TGA-GC-MSによる複雑な分解反応の分析
- ニッケル酸化物のエレクトロクロミック層形成の熱重量分析調査
改良TGAによる動的水蒸気吸収プロセスの測定
はじめに
本稿では、水蒸気の動的吸収過程(動的蒸気吸収、DVS)を測定するためのTGA測定機器の改良を説明します。このタイプの装置は、粉体サンプル質量の変化を相対湿度と時間の関数として測定することができます[1](P.17)。特に、これが重要なのは、水溶性の粉末食材はたいてい吸湿性が高いからです。このような食材を高湿条件下で保管すると、塊になって相変化を起こして再結晶化したり、風味が消えたり、カビが生えて変質したりします。ここで説明するDVSメソッドは、湿度が関係する粉体系の挙動をキャラクタリゼーションするのに使用される多数のメソッドの一つです[1] (P.17)。
従来のメソッドと比べて、DVS手法は、高速性と省力性という点で優れています[1] (P.17)。DVS装置によって、単一サンプルから完全な等温吸収をほぼ全自動で測定できます。同時に、吸着プロセスを、動的=時間の関数として追跡することができます。しかし、市販されているDVS装置は、標準的なTGA装置の何倍もの費用がかかります。したがって、我々は メトラー・トレドと協力して、TGA装置をDVS装置に改良して、必要に応じてDVS測定またはTGA測定のために使用できるようにしました。これによって追加された利点は、吸着のエンタルピーなどの重要な熱力学的数量を、DVS/TGAを結合して測定することによって決定できることです。これを従来のDVS装置で直接的に実行することは不可能でした。
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文献
[1] Gál, S., Recent Advances in Techniques for the Determination of Sorption Isotherms, in Water Relations in Food, R.B. Duckworth, ed., Academic Press, London (1975).
先進的モデルフリー反応速度論ソフトウェアを用いたプリプレグの可使期間の決定
はじめに
反応速度論調査は、熱分析における重要なアプリケーションになってきました。実行可能な測定範囲を超えた化学物質の反応挙動の予測と決定に、化学反応による反応速度論データを使用することができます。本論文では、先進的モデルフリー反応速度論(アドバンスドMFK)ソフトウェアオプションを使用して、炭素繊維強化プリプレグの可使期間を決定する方法について説明します。プリプレグとは、未硬化樹脂母材に包埋された繊維から構成され、成形用のシート形状で準備される未硬化の熱硬化性複合材料に付けられた名称です。通常プリプレグは冷凍庫で保管され、その温度(例えば、-18℃)における、いわゆる貯蔵寿命を持っています。可使期間とは、プリプレグが使用前に冷凍庫の外の周辺温度(例えば、20℃)で経過する累積時間のことです。
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骨折治療の代替品としてのポリ-ε-カプロラクトン-ポリテトラハイドロフラン共重合樹脂
はじめに
現在に至るまで、骨折治療においては、骨折部位が治るまで石膏を含浸させたギブスで覆うという方法が取られています。しかし、このような石膏ギブスはかなり重たい上に水に濡らすともろくなる。最近、石膏ギブスの代替品が探求されてきました。最も有望な材料は、ポリ-ε-カプロラクトンとポリテトラハイドロフランの共重合樹脂(PCL-PTHF)です。これは、ジイソシアネートヘキサン(HDI)によって適切な割合のPLCとPTHFジオールの混合物を縮重合して合成されます。この材料を開発するにあたって、熱分析から貴重な情報が得られました。その一例として、コポリマーの加工温度での分解の影響を示差走査熱量分析(DSC)によって調査し、各種コポリマーの機械的物性の比較に動的熱機械測定(DMA)を使用しました。
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TGA-GC-MSによる複雑な分解反応の分析
はじめに
熱重量測定実験は、材料の熱挙動のキャラクタリゼーションにとって重要な定量的情報を提供します。
脱水プロセスなどの単純な反応は、通常、TGA測定によって完全に説明することができます。より複雑な反応を解明するために、TGAを質量分析計(MS)または赤外分光光度計(IR)と結合してサンプルの分解中に発生するガス状生成物を同定することがよく行われています。合成のための出発原料、ポリマーまたはビチューメンの分解、ガス混合物などの複雑な材料が生成されるときには、その個別の成分をMSまたはFTIR解析によって絶対に確実な同定をすることは不可能です。そのような場合、GC-MSシステムとTGAをオンライン結合すればおおいに有利になります。同時に発生するガスは、最初にガスクロマトグラフィー(GC)によって分離されてから、MSによって同定されます。
本稿では、TGA/SDTA851e とHewlett Packard(HP)製GC-MS(HP6890およびHP5973)システムのオンライン結合について説明します。
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ニッケル酸化物のエレクトロクロミック層形成の熱重量分析調査
はじめに
エレクトロクロミック部品の光学活性要素としてニッケル酸化物の薄膜が時々使われています[1](P.34)。
エレクトロクロミック層に低い電圧をかけるとその光透過率が変化します。化学的には、薄膜内の分子の酸化状態が変化して、それによって光との相互作用つまり透過挙動が変化します。このタイプの層は、主として実際の明るさに応じて自動的にその透過性または屈折挙動を調整するエレクトロクロミック・ウィンドウおよびミラーに使用されています。このような層を調製するためには、浸漬法により基板に酢酸ニッケルの薄膜を塗布します。それから特定温度でこれを一定時間加熱して等温に保持します(すなわち、焼付け)。ニッケル酸化物のエレクトロクロミック層が形成されます。この層の特性は、焼付けプロセスの温度と継続時間に影響されます:温度が高すぎたり焼付け時間が長すぎたりすると、エレクトロクロミック特性が劣化して完全に不活性になります。この層の熱処理がうまくいかないと基板から活性層が剥離する恐れがあります。
エレクトロクロミック層の形成に対する温度と時間の影響を調べるために、熱重量測定を使用することができます。難しい点は、基板の上に形成される層がきわめて薄いということです。それによって生じる重量変化はごく微かであり熱天秤の検出限界に近づくことも珍しくありません。したがって、たいていはこの層に使用される出発原料の粉体の形で調査します。しかし、実際の層と比べて粉体の出発原料は微細構造に大きな違いがあります。もちろん、これによって結果の比較が困難になります。
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文献
[1] C. G: Granqvist: Handbook of Inorganic Electrochromic Materials, Elsevier Science, Amsterdam, 1995, p. 4, 39.