熱分析 UserCom 12内容
TAのヒント
- DSC カーブの解釈(パート2:等温測定)
ニュース
- 容器パンフレット
- 液体窒素自動充填システム
アプリケーション
- DSC による石油製品のキャラクタリゼーション
- 熱硬貨性材料についての示差走査熱量分析の応用
- フォースと温度を変調した繊維のTMA 測定
- DSC による細孔分布の測定
- 高密度ポリエチレン(HDPE)中の低濃度の低密度ポリエチレン(LDPE)の測定
- TMA/SDTA840 によるポリエチレンの酸化誘導時間(OTT)
ヒント
- TG の結果に対するサンプル質量の影響
DSC による石油製品のキャラクタリゼーション
はじめに
普通の燃料は、もっぱら石油すなわち原油から作り出されます。石油は、主として6 種類の異なる物質の混合物です。その混合物の組成は、石油の分布地域に固有のものであり、次のようなものから構成されます。
- 分子量16~300g/mol の直鎖ノルマル-アルカン(CnH2n+2)
- 分岐鎖アルカン(イソ-アルカン)
- シクロアルカン
- 芳香族
- 硫黄含有化合物
- 多環式・複素環式樹脂並びに分子量約1000g/mol の瀝青質
原油を蒸留することによって様々な留分が得られ、それは以下の通りに分類されます:
低沸点留分、例、ガソリン(自動車用ガソリン)、航空ガソリン、ナフサ;中間留分、例、燃料油、灯油、ディーゼル油;高沸点留分(重油及び潤滑油)。蒸留後の残留物は、瀝青質(またはアスファルト)として知られています。
液体状態においては、留出油は、巨視的には単一相の混合物の外観を呈します。冷却すると結晶が形成され、すなわち多相混合物が得られます。結晶質の分離は好ましくなく、数多くの問題を引き起こします:
- 結晶質が分離すると沈殿物を生じます。これは、特にディーゼル油と灯油の貯蔵時にしばしば問題になります。
- 結晶質はフィルターに残って目詰まりを起す原因になります。
- 瀝青質(アスファルト)製品は、主として道路舗装に使われます。結晶化は路面がもろくなる原因となり、その結果ひび割れが生じます。
炭化水素留分は、主として複雑な炭化水素化合物と結晶性留分から構成されます。炭化水素化合物は、室温では部分的に液化し低温でガラス転移を呈します。液体成分のガラス転移温度は石油留分によって様々です。典型的な数値は、瀝青質で-30℃、ディーゼル油で-130℃、ガソリンで-150℃です。結晶性留分の場合は、瀝青質で0%~10%、灯油で5%~25%、原油では40%以上になります。結晶の化学構造は留分によって様々に異なります。灯油では、10~28 個の炭素原子を有するノルマル-アルカン、瀝青質では、20~60 個の炭素原子を有するノルマル-アルカン、原油では、5~60 個の炭素原子を有するノルマル-アルカンが結晶化します。より軽質で分岐したイソ-アルカンとシクロアルカンも存在しています。
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熱硬化性材料についての示差走査熱量分析の応用
はじめに
示差走査熱量分析(DSC)では、サンプルの吸熱的/発熱的エンタルピー変化を定量的に測定できます。部分結晶性プラスチックの溶解プロセス、ガラス転移及び熱硬化性樹脂の硬化などの化学反応を全て日常的に分析することができます[1]。
ガラス転移以上の昇温によって熱容量が増加します。ガラス転移温度Tg 及び転移における非熱容量の変化Δcpは、プラスチックの状態特性です。例えば架橋が増加した結果、分子内運動及び分子間運動が制限されるようになるとガラス転移温度は上昇します。Δcp から分子の相互作用に関する一定の結論を導くことが可能です。
プリプレグは、樹脂と硬化剤を混合して繊維に含浸させて作られた半製品です。これは圧力と温度の作用によって熱硬化性成型材料を製造するのに使用されます[2]。不飽和ポリエステル樹脂(UP 樹脂)をベースにしたSMC(シートモールディングコンパウンド)プリプレグ用のレジンシステムの開発に当っては、以下の課題に答える必要があります:
- 反応性の制御、例えばフォーミュレーションが変化しても所望の硬化程度が達成されるかどうか。
- 圧縮(すなわち成型)及び硬化作業の最適な継続時間。
- プリプレグをどのくらいの期間保存できるか、すなわち、その貯蔵安定性。
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文献
[1] B. Benzler: Dynamische Differenzkalorimetrie - Hohe Reproduzierbarkeit Plastverarbeiter 47 (1996) 9, Seite 66
[2] B. Benzler: Vollständig vernetzt? Dynamische Differenzkalorimetrie an EP-Harzen Plastverarbeiter 47 (1996) 11, Seite 58
フォースと温度を変調した繊維のTMA 測定
はじめに
熱収縮は、用いられた加工条件すなわち熱履歴に関係する個々の繊維の構造によって異なる、繊維の重要な物性です[1]。収縮は、一定の昇温速度で低い引張り力(荷重)を使った古典的熱機械分析(TMA)によって測定できます。収縮しないサンプルの線形膨張係数αe も同じ方法で測定することができます。また昇温プログラムで引張り力を変調させれば、TMA でヤング率(E)も測定できます[2]
しかし、引き伸ばされた(延伸した)繊維の場合は、収縮に重なって昇温による膨張が起きるので、これをTMA で直接測定することはできません。膨張と収縮は、サンプルの構造を通じて物理的に結合されたプロセスです。構造的緩和が起きると両方の物性が変化しますが、その速度は異なります。それらが別の効果(例えば、自由体積と結晶の完全性)によって律速されるからです。それに加えて、収縮は内部応力の不可逆的変化の影響も受けます。その結果、αeが収縮によって変化するので、2 回目の昇温測定では延伸した繊維の本来の熱膨張係数を測定することができません。
温度変調TMA として知られる特別な手法を使えば、膨張挙動と収縮挙動が同時に決定されます。温度変調DSC(ADSC)とほぼ同じ方法で、平均昇温速度に変調した昇温速度を重ね合わせます。その結果、温度は正弦波を描いて振動します。例えば、3 分おきに平均速度1K/分で最大5K/分から最小-4K/分の範囲で上下に振動します。サンプルは、平均温度が上昇するにつれゆっくりと付加逆的に収縮します。しかし、わずかな温度変化の後に通常の可逆的な膨張が続きます。このことは収縮係数αe とは無関係に、温度の変調によって誘導された振動する長さの変化によってαe を決定できることを意味します[3]。
ヤング率(E)は、引張り力を変調したときに生じる長さの変化から決定されます。この変調の周波数が温度変調の周波数よりもかなり高い場合は、両方の励起を同時に適用できます。そのときにTMA 測定カーブからE、αe及びαs を計算するためにフーリエ解析が使用されます。
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文献
[1] M. Jaffe, Thermal Characterization of Polymeric Materials, 2nd Edition, E.A. Turi Ed., Academic Press, New York 1997, 1767.
[2] H. G. Wiedemann, R. Riesen, A. Boller, ASTM STP 1136, American Society for Testing and Materials, Philadelphia (1991) 84.
[3] R. Riesen, J. E. K. Schawe, J Thermal Anal. 59 (2000) 337-350.
DSC による細孔分布の測定
はじめに
細孔分布(PSD)は、多くの材料で重要な物性になっています。セラミック、触媒、製薬、そして執筆者自身が関心を持つ特殊分野のセルロースパルプ繊維がそのような材質の例である。細孔分布を測定する古典的方法は、ガス吸着と水銀による細孔測定(porosimerty)です。その代替となる興味深い手法はDSC をベースにしたもので、一般には熱的細孔測定(thermoprosimetry)として知られています。本稿では、熱細孔分布測定は多孔性材料に保持される吸着質の融点降下の決定に基づく細孔径密度の測定を指します。
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高密度ポリエチレン(HDPE)中の低濃度の低密度ポリエチレン(LDPE)の測定
はじめに
機械的物性を改善する目的でHDPE に少量のLDPE を添加することは珍しくありません。以下の実験では、そのような添加の検出限界を決定して、ポリマー混合物中でそのような添加物を定量的に決定できる範囲を調査するためのDSC 利用法を説明します。この実験のためにLDPE含有量が既知である各種サンプル4 点を使用しました。最初に純粋なPE のサンプルを測定しました。図1 はLDPE の融解挙動がHDPE の融解挙動を明確に異なることを示しています。この2 つの材料が少なくとも部分的には相溶性が無いと仮定すれば、図1 に示すようにLDPE とHDPE の混合物のDSC 融解カーブが明瞭な2 本の融解カーブが表されるものと期待できます。
図1: LDPE とHDPE の融解カーブ。LDPE 融解カーブのピークの極大は顕著に低くなります。また、LDPE とHDPE の結晶化度も異なっています;一般的にHDPE は約65%、LDPE は約25%の結晶化度です。 |
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TMA/SDTA840 によるポリエチレンの酸化誘導時間(OIT)
サンプル | プラスチックパイプから採取した架橋プリエチレン(PE-X) | |
期待される情報 | 210℃の酸素中での酸化誘導時間(OIT) | |
測定条件 | 測定セル | 反応性ガスインレットにガスコントローラーを装着したTMA/SDTA840 |
プローブ | -0.01N の負荷重を発生(この状態でプローブでは長さの変化は測定できません) | |
サンプル作成 | ナイフで切取った約15mg の断片 | |
容器 | 軽量アルミニウム製容器、リッドなし | |
TMA 測定 | 20K/分で50℃から210℃まで昇温、それから窒素中で5 分間等温に保つ。 その後で酸素に置換する(ガスインレット:反応ガス)。 |
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