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アプリケーション
- 半結晶ポリマーの微弱なガラス転移の特定
- TGA-GC/MCによる未知のポリマーサンプルの特定
- モデルフリー反応速度解析(MKF)によるPA6.6化合物の反応速度計算
- 薄い接着の動的/機械的特性
アプリケーション
半結晶ポリマーの微弱なガラス転移の特定
半結晶ポリマーでは、多くの場合、ガラス転移が顕著に現れることはほとんどないため、測定が困難です。標準的な 50 % の結晶率を有するアイソタクチックポリプロピレン(iPP)で、DSC により、0.1 J/gK 以下のガラス転移ステップを再現性よく、確実に特定できます。
はじめに
半結晶ポリマーは、結晶部分とアモルファス部分から成ります。ガラス転移は、アモルファス部分にだけ発生します。その結果、半結晶ポリマーのガラス転移ステップステップは 100 % アモルファスポリマーよりも明らかに小さくなります。このため、高結晶ポリマーのガラス転移の実際の特定が難しくなる場合があります。微弱なガラス転移ステップを DSC でまだ測定可能かどうかは、ガラス転移の幅によっても異なります。ガラス転移の幅は結晶化度が高まると、大きくなります。
通常、ポリマーのガラス転移は昇温速度 10 K/min およびサンプル 量約 10 mg で測定されます。ここでは、iPP の例で DSC 1 によって、5 mg 以下の少ないサンプル量でも微弱なガラス転移を測定できることを示します。これにより再現性が向上します。
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TGA-GC/MSによる未知のポリマーサンプルの特定
TGA-GC/MS カップリングにより、未知のサンプルの含有成分を調べることができます。このために TGA と GC/MS の間にガス貯蔵モジュール IST 16 を使用し、このモジュールにより、TGA 測定中に最大 16 のさまざまな温度のガス形状サンプルを保存することができます。TGA 分析後に、これらのガスを GC/MS で分析し、特定することができます。この論文では、黒いポリマー粒子の特性をこの技術で分析しました。
はじめに
TGA 測定は、サンプル材料の分解生成物に関する特別な情報を示すものではありません。このため、TGA 機器は分解生成物を特定できる他の測定機器と接続される場合がよくあります。
これには、TGA の FTIR または MS 機器への接続も含まれます。この 2 つの技術には、同時に指定された生成物を互いに区別し、特定するために多大な費用がかかるという短所があります。
これは、たとえば、ポリマーの熱分解時によく起きることです。この問題は、分解生成物を分離してから特定することによって解消され、TGA-GC/MS カップリング [1, 2] によって、この分離が可能です。
この例では、加熱した貯蔵インターフェイス(IST 16、図 1 および 2 を参照)を使用し、これにより、TGA 分析中に特定の温度で 16 のサンプルを収集して保存します。その後、サンプルは、ガスクロマトグラフに注入され、マススペクトルメーターによって、特定されます。この論文では、サンプルとして、黒いポリマーサンプルを TGA-GC/MS で調べました。
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モデルフリー反応速度解析(MKF)によるPA 6.6 化合物の反応速度計算
添加PA 6.6 化合物のTGA 測定に基づいて、熱分解プロセスへの影響を求めるために反応速度計算を実施しました。
はじめに
Leipzig gGmbH (www.kuzleipzig. de)の合成樹脂センターの研究プロジェクトの一環として、難燃性の充填剤を含むポリアミド6.6 化合物の流動特性と耐火特性を調べました。
この物質の熱特性分析を、TGA 測定を利用して、さまざまな昇温速度で行いました。この測定カーブからモデルフリー反応速度解析(MFK)による分解反応速度が解析されました。
使用した難燃剤、メラミンシアヌ レートは窒素を含み、主に気体状態で作用します。添加物の強い放熱分解により燃焼プロセス中に冷却が発生します。気体状の不燃性の分解生成物により、さらにポリマー表面の酸素濃度が低下します。
ポリアミド6.6 (PA 6.6)では、10 質量%の添加により、燃焼性等級UL-94 V-0 への分類を達成しました。この量のメラミンシアヌ レートを添加することによるPA 6.6 の機械的/電気的特性の低下はごくわずかです。PA 6.6 と耐火剤の化合物の機械特性を向上させるために、充填剤がよく追加されます。
上記の研究プロジェクトでは、不活性ケイ酸充填剤が燃焼挙動に与える影響を調べました。
反応速度の分析は分解反応の時間的プロセスの説明とTGA 測定カーブのシミュレーションに利用されました。反応速度の測定は次の2 つの異なるアプローチにより実施できます。
- モデルベースの反応速度解析
- ISO 変換手法に基づくモデルフリー反応速度解析
モデルベースの方法では、まず反応タイプに適した反応モデルを選択します。その場合に、反応段階ごとに活性化エネルギーは一定です[1]。このアプローチは、ポリマー反応が属する複雑な反応の反応速度の計算には向いていません。その理由は、部分反応が多数発生し、それらの部分反応にも生成される中間生成物が関わってくるからです。これにより、連続的な反応により、反応全体の活性エネルギーが変化します。
このため、実際の反応速度解析では、変換に依存する活性化エネルギーが考慮されるモデルフリー反応解析の方が有利です[2]。 STARe ソフトウェアのMFK ソフトウェアパッケージにより測定カーブのシミュレーションが可能です。このため、測定技術(高すぎる昇温速度)または時間(低すぎる昇温速度)の理由から直接測定できないTGA カーブは得られません[2]。
さらに、非等温測定データから等温測定データが計算されます。これにより、例えば、さまざまな温度での反応の時間的なプロセスが判断されます。この計算の基になるのは、少なくとも3 つの異なる昇温速度での反応の測定カーブです。
本稿では、MFK によるTGA データの解析を上記の問題の解決に利用する方法およびその際に発生する制限を示します。
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参考資料
[1] S. Vyazovkin and C. A. Wight, International Reviews in Physical Chemistry 17 (1998) 407–433.
[2] S. Vyazovkin and N. Sbirrazzuoli, Macromolecular Rapid Communications 27 (2006) 1515–1532.
薄い接着の動的/機械的特性
ポリマー - 金属接着の機械特性は、DMA を使って、接着層の厚みの関数として求められます。せん断弾性率の測定カーブからガラス転移温度と有効な架橋厚みを測定します。この2つの大きさがポリマー層の厚みに依存することがわかります。原因は、ポリマーと金属の接触領域に相間が形成されることにあります。相間の特性は使用する金属によって異なります。
はじめに
接着および接着材料の機械特性は基本的に使用するポリマーの粘弾性挙動によって異なります。ポリマーの粘弾特性は、温度と変位条件に複雑に依存しています。金属-ポリマー接着の場合、接着接続の機械特性は基本的に表面領域の相互作用によって決まります。
相間が形成され、その接着結合への影響をここで説明します。相間はポリマーと基板の接着の原因となります。接着材料では、相間によって、マトリックスポリマーと充填剤の相互関係がわかります。
通常、各接着メカニズムにより、ポリマー分子の金属表面と接触する部分が固定されます。発生する接着総合作用により、金属接着面付近に接着剤分子の優先方向が生じ、このポリマー成分の分離傾向に作用します。この金属表面のポリマー構造と動的動作への影響の到達範囲は相対的に大きくなっています。多くの論文で接着におけるこのような相間の形成が報告され、そこでは、金属基板との接着面の接着剤の化学組成の濃度勾配が確認されています[1]。
この独自の効果が機械特性や機械内部の張力の分散など、相間のその他の特性を伴う場合があります。このことは、接着剤基板 - 結合の機械特性も接着層の厚みによって変わることを意味しています。
接着層が薄い接着では、厚い接着よりも補間が明らかに重要な役割を果たしています。実際には、接着剤の機械挙動も、結合部材の機械挙動も引っ張り試験および曲げ試験によって特性を分析することがよくあります。
しかし、このような試験では、基板の影響が考慮されないため、機械的な特性を完全に説明するには、不十分です。
この章では、動的粘弾性測定(DMA)を使って、さまざまな厚みの接着の有効な機械動作で接着層の厚みへの依存性の特性を調べる可能性を探ります。
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参考資料
[1] L. Krogh, J. E. K. Schawe, W. Possart, Dynamic mechanical properties of very thin adhesive joints, J. Applied Polymer Science, 132 (2015) 42058.