熱分析 UserCom 36内容
TAのヒント
- ポリマーの熱分析 第6 部:エラストマーのTMA とDMA
ニュース
- DMA 1/ STARe ソフトウェア バージョン 12
- TGA 1
- ThermoStar™ – 発生ガス分析用質量分析計を接続した分析ソリューション
アプリケーション
- TGA および DSC を用いたキュリー点測定
- DMA 1によるPUR 試験片の引っ張り測定
- Flash DSC 1の実用面:ポリマーの相転移測定を行うためのサンプルの準備とプロセス
- 骨軟骨組織再生のためのインプラント用バイオミメティック材料の特性評価
- 湿度雰囲気下でのDMA 測定
TGA および DSC を用いたキュリー点測定
温度に依存して磁気特性を示す材料がありますが、この特性は熱重量測定(TGA)および示差走査熱量測定(DSC)で測定することができます。このようなサンプルは、低温では強磁性ですが、キュリー点と呼ばれるキュリー温度を超えるとマクロスコピック(巨視的)な磁性のふるまいを失い、常磁性になります。
はじめに
磁性は日常生活の中で多様な実践的用途を持った、重要な材料特性です。冷蔵庫用のマグネットから方位磁針、ハードディスク、廃棄物の中から高価な金属を分離する選別機にいたるまで、多彩な用途があります。
日常の会話の中で「磁性」と言われているのは、強磁性として知られるミクロスコピック(微視的)な特性のマクロスコピック効果のことです。強磁性は、材料内部において一方向に向かう平行な電子スピンにより生じる物理現象です。図 1 は、この現象を概略的に示したものです。
図1:キュリー温度以下の場合の強磁性材料の電子スピン配列 |
強磁性以外に、フェリ磁性、常磁性、反磁性という特性があります。
フェリ磁性では、いくつかの電子スピンは平行に、他はその逆方向に配列しており、互いの磁化の大きさが異なるため全体として弱い磁性を有します。フェリ磁性は、強磁性の1 つとみることができます。
また、常磁性には材料内部に電子スピンの配列がなく、そのため、マクロスコピックな磁性はありません。反磁性では、その磁場を弱めるための反対向きの磁場がつくられます。
本章のテーマは強磁性で、特にキュリー温度と呼ばれている強磁性- 常磁性相転移です。
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DMA 1 によるPUR 試験片の引っ張り測定
プロウレタン(PUR)の機械的特性をDMA 1 の引っ張りモードで評価しました。ガラス転移より高温側で、α 緩和とβ 緩和以外のプロセスを見ることができます。DSC 測定とマルチ周波数スキャンは、1st heating と2nd heating で観察された事象の理解に役立っています。
はじめに
本章では、DMA 1 を用いて比較的柔らかいPUR を引っ張りモードでどのように測定するのかを紹介します。DMA 1 により、ガラス転移とβ 緩和以外の事象を見つけることができ、DSC 測定を通じてこれらが結晶化と融解であることが確認されました。これを裏付けるため、引っ張りモードにてマルチ周波数スキャン測定を行いました。これは結晶化と融解が緩和プロセスとは対照的に、周波数依存性を示さないことに由来します。
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Flash DSC 1 の実用面:ポリマーの相転移測定を
Flash DSC 1 は、熱分析における昇温速度を数万K/s まで拡張します。 これだけの昇温速度があれば製造プロセスにおける材料の構造形成挙動を調べることが可能になりますが、これに伴い、Flash DSC 1 の利用に際して次の様な質問が出ています。
考えられる質問の例:
- サンプルの量をどうやって決定するのか。
- ブランクカーブはどのように決定するのか。通常、および中間レベルでの昇温速度が必要とされる場合。
- 昇温速度が低い場合、材料によっては生じるアーテファクトをどうすれば回避できるのか。
- サンプルの1回目の昇温測定はどうしたら得ることができるのか。
こういった質問に対する解決案をご提案させていただきます。
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骨軟骨組織再生のためのインプラント用バイオミメティック材料の特性評価
本稿では、関節軟骨の治療や再生医療用に使用されているインプラント材料がSEMとTGA によってどのようにキャラクタリゼーションできるかをご紹介します。
はじめに
私たちの体の可動性は、関節により可能になります。関節は、2 つの骨が曲がるようにつなぎ合わせる可動型ジョイントで、片方の骨の末端部分はヘッドの形をしており、これがもう片方の骨の末端部にあるくぼみの部分にはまるようになっています。潤滑油の役目を果たす滑膜と共に関節軟骨が骨にかかる負荷を均等に分散し、骨どうしが直接擦れ合うことがないようにしています。
関節軟骨には自己再生能力がないため、皮膚の損傷とは違い、関節軟骨の治療には時間が必要です[1]。
この理由から、今日では外科手術による治癒プロセスを加速する可能性が検討されています。通常、手間のかかる複雑な移植(骨と一緒に関節軟骨を移植する)ことが行われていますが、インプラントがあれば、もっと簡単に済む話です。
しかし、インプラントは骨と関節軟骨を模倣した層から構成され、さらにどちらの層も生体に類似した特性と構造を有していなければなりません[2]。私たちは近年、こういった層を均等に作り上げる方法を開発してきました[3]。
本稿では、こうして作り上げた層を走査型電子顕微鏡(SEM)と熱重量分析(TGA)を用いて評価し、今日一般的とされている標準手法[4、5]で製造された材料と比較しました。
特に興味深いのは、この材料の形態および構造上の特性です。
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参考資料
[1] Hunter, W.; Of the structure and disease of articulating cartilages. Clin. Ortop. Retat. Res. (1995), 174 3:3 - 6
[2] Sherwood, J. K.; Riley S. L.; Palazzolo, R.; Brown, S. C.; Monkhouse, D. C.; Coates, M.; Griffith, L. G.; Landeen, L. K.; Ratcliffe, A.; A three-dimensional osteochondral composite scaffold for articular cartilage repair. Biomaterials (2002), 23:4739 –4751.
[3] Pressato D., Dolcini L., Nicoletti A., Fiorini M. WO 2011/064724 A1 (patent application) Biomimetic composite materials, preparation process thereof and use thereof to produce mono-, bi- or multi-layer structures for the regeneration of bone, cartilaginous and osteocartilaginous tissue.
[4] Wang X., Li X., Lu J., Zhao H., Zhang X., Gu Z. Investigation of a collagen-chitosan-hydroxyapatite system for novel bone substitutes. Key Engineering Materials (2007), 3 3 0 – 3 32:415 - 418.
[5] D. Shi, D. Cai, C. Zhou, L. Rong, K. Wang, Y. Xu; Development and potential of a biomimetic chitosan/ type II collagen scaffold for cartilage tissue engineering. Chin. Med. J. (2005), 118:1436–1443.
湿度雰囲気下でのDMA 測定
UserCom34 にてお知らせさせていただいたように、メトラー・トレドは英国トライトン・テクノロジー社を傘下に加えました。(www.triton-technology.co.uk)これにより、動的粘弾性測定装置(DMA)をより幅広く提供することが可能となりました。TT DMA は、品質管理や標準的なアプリケーション測定の装置として適しているだけでなく、次の2 つのオプションを提供してくれます。1 つ目は、動的粘弾性測定をしっかりと管理された湿度環境下で実行することができる点で、TT DMA は調湿機能を備えている湿度発生装置と連動可能です。2 つ目は、サンプルを液体に浸した状態での測定を可能にする機能が備わっている点です。
はじめに
材料は溶剤に浸すことによって柔らかくしたり、反応(硬化)させたり、融解させたりすることができます。つまり、溶剤は材料を折ったり、変形したり、使用できなくするほどの影響を有しています。図1は、溶媒槽付きTT DMA の炉のオープン/クローズドポジションの様子を示しています。
図1:溶媒槽付きTTDMA: オープン(左)、クローズ(右) |
測定ヘッドは下向きに設置されています。溶媒槽は目的の溶媒で満たされていて、温度は循環恒温槽で一定に保たれます。
図2 は、引っ張りモードのDMA 測定を行った際のナイロン裁縫糸に対する水の効果を示したものです。試験に用いたサンプルは長さが10mmで、直径は0.15 mmでした。測定モードは「Ratio-Tension」モードで、150 % に相当する1.5 と0.20mm の変位を使用しました。
図2:水温20℃と40℃でのDMA 引っ張り試験を行った際のナイロン製裁縫糸の貯蔵弾性率E’:水に浸した時点 |
最初に弾性率E’ を大気中で測定し、その後、サンプルを20℃の水に浸しました。図2 では青色の破線で示されています。
20℃と40℃におけるカーブから、糸は水中で柔らかくなり、水温が弾性率に影響を及ぼしていることがはっきりと分かります。20℃では、弾性率が4.5 Gpa から1.3 Gpa以下に下がっています。
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