熱分析 UserCom 35内容
TAのヒント
- 重合体(ポリマー)の熱分析、第5 部: エラストマーのDSC(示差走査熱量測定) とTGA(熱重量測定)
アプリケーション
- DSC を用いて琥珀の年齢を決定するアイディア(TOP-PEM)
- TOP-PEM を使って測定されたリグニンのガラス転移
- 動的粘弾性測定(DMA)の引張試験ホルダーでのサンプル温度の校正と調整
- メルトスパン法で得られたポリフッ化ビニリデン繊維の構造・特性および相転移
DSC を用いて琥珀の年齢を決定するアイディア(TOP-PEM)
針葉樹の樹脂の化石は、とくに「琥珀」という名前でよく知られています。琥珀に閉じ込められている植物や動物は、学術研究と宝飾品製造の対象として関心を集めています。一方で、琥珀は高価なため、合成樹脂や人為的に古くした樹木の樹脂を使った模造品が数多く出回っています。ですから、琥珀が本物かどうかを見分けるためにその古さを決定することは非常に重要となります。
はじめに
DSC は、琥珀とその他の樹脂を古さに応じて分類するための手軽な方法であることを立証しました。その手法として、1 回目の加熱時のガラス転移温度(Tg)が使用されています。古い琥珀は高いガラス転移温度を示します。これは、何百万年という長い年月をかけてゆっくりと架橋し、油脂成分の割合が減っていった結果です。
新鮮な樹木の樹脂のガラス転移温度は、概ね室温レベルで、四千万年の琥珀のガラス転移温度は150℃です。加熱の際にエンタルピー緩和と再架橋反応がガラス転移を覆い隠すため、評価には温度変調DSC、TOP-PEM を使用することが不可欠です。
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TOP-PEM を使って測定されたリグニンのガラス転移
さまざまな水分量を含むリグニンのガラス転移、脱水、架橋および分解の挙動をTOP-PEM を用いて測定しました。トータルヒートフローの可逆成分、不可逆成分への分離、さらに、ガラス転移の周波数依存性からガラス転移の見かけの活性化エネルギー値が求められ、これにより、リグニンの分子間相互作用における水分の影響の知見が得られました。
はじめに
リグニンはセルロースに並ぶ木材の主要な構成要素で、植物細胞壁に沈着して樹木を木化させます。さらに、リグニンはランダムな三次元の網状を呈する複雑な天然の重合体で、リグニンの熱による軟化は、木材の粘弾性の主な決定要因となります[1、2]。木材サンプルにおいてリグニンのガラス転移は、示差熱分析(DTA)[6]、あるいは動的粘弾性測定装置(DMA)[3 ~ 5] により観測されています。
ここでは単離されたリグニンのガラス移転について、温度変調DSC 測定(TOP-PEM)を用いて得られた結果を報告します。
また、ガラス転移に及ぼす水分の影響について調べるため、ガラス転移温度の周波数依存性を評価しました。その結果、見かけの活性化エネルギーはリグニン中の水分量に依存することが明らかになりました。
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動的粘弾性測定(DMA)の引張試験ホルダーでのサンプル温度の校正と調整
DMA/SDTA861e はサンプル温度を測定するために用いられる熱電対をサンプルの近くに有しています。その測定におけるサンプル温度は、校正ないし調節することができます。本稿では大型、小型の引張試験のホルダーで、どのようにして行うかを紹介します。
はじめに
DMA/SDTA861e ではサンプル温度を一つの熱電対で測定します。このサンプル熱電対(STC)は各サンプルホルダー用に、別々に調整し校正することができます。せん断サンプルホルダーでは、STC がサンプルホルダーと直接接しており、サンプルの位置に対して常に同じ位置を再現することができるため、特に容易に行えます。
サンプルホルダーの熱容量は大きく、サンプルとサンプルホルダーの間に非常に密接な接触があるので、せん断試験で測定されたサンプル温度は実際のサンプル温度と非常に正確に一致することが保証されています。加えて、熱分析でしばしば使用される校正用の物質(インジウム、亜鉛、水)が問題なく使用できます。
曲げや引張、圧縮の試験では状況が異なります。この試験では、STCはサンプルホルダーに直接接触せずに、できるだけサンプルの近く設置されています。その結果、STC の位置を含む再現性によって、測定サンプル温度には不確定さがつきまといます。
また上述の校正物質の使用は簡単ではありません。本稿では引張試験においてSTC の校正/調整のためにサンプルをどのように準備するのか、引張試験において測定されたサンプル温度にはどのような不確定性が寄与するのかを紹介します。紹介する手法は大小の引張サンプルホルダー(引張クランプ)に使用できます。
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メルトスパン法で得られたポリフッ化ビニリデン
DSC、温度変調DSC、およびDMA により、メルトスパン法で得られたPVDF 繊維の結晶相の転移を調べ、広角X 線回折(WAXD)の結果と比較しました。相転移に関する情報は、繊維中のβ 相の割合の調整と圧電特性の最適化に用いることができます。
はじめに
ポリフッ化ビニリデン(PVDF)は、卓越した化学的安定性を持つフッ化ポリマーです。PVDF は半結晶性ポリマーで、異なる結晶相(α相、β相、γ相、δ相)を形成します。この分子はポリマー鎖に対して垂直方向に大きな双極モーメントを持っているため、結晶構造に応じて異なる電気的特性が生じます。この電気的特性は、例えばアクチュエーターやセンサに利用できます[1]。
PVDF フィルムはメルトブローイング法で、PVDF 繊維はメルトスパン工程で製造されますが、製造プロセスに応じて、最大4 種類までの結晶相が生じます。α相、γ相、δ相は非極性ですが、β相は機械的な引張応力、もしくは強い電場によって形成され、材料に強誘電特性および圧電特性を与えます。
これらの相とその移転は、示差走査熱量測定(DSC)や動的粘弾性装置(DMA)、広角X 線回折(WAXD)を用いて特徴付けられます。さらに、その結果は製造プロセスとの最適化に活用することができます。
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参考資料
[1] Walter, S. et al.: Characterization of piezoelectric PVDF monofilaments, Materials Technology (2011), 1.