熱分析 UserCom 31内容
TAのヒント
- ポリマーの熱分析;第1部: 熱可塑性樹脂のDSC
ニュース
- 新しい熱分析総合解説書 熱分析ハンドブック
- 融点ソフトウェア MP 更新版1.1
アプリケーション
- DSC、DMAおよびモデルフリーキネティックスによるEVAの硬化キネティックスの研究
- TOP-PEMと標準DSCによる脂環式エポキシド樹脂のUV硬化
- DMAによるサンドイッチプレートの個々の構成材の分析
- 水素備蓄に関するTGA/MaxRes実験
DSC、DMAおよびモデルフリーキネティックスによるEVAの硬化キネティックスの研究
太陽光発電は、太陽光を直接電気に変換するためのよく知られた有望な技術です。この技術は持続的なエネルギー供給に大きな貢献をすることができるでしょう。
はじめに
太陽光発電モジュールの製造時の重要な工程が、その積層です。この生産工程では、太陽電池にカバーガラスと背面カバーパネルを接着します。
接着には、通常は、モジュールをシールすると同時に、環境影響(水分、酸素)からの保護も行う厚さ0.4mm の酢酸エチルビニル(EVA)フィルムを使用します。これは、今日一般的な耐用年数25 年の保証にとって非常に重要なのです。本稿では、DSC およびDMA測定とモデルフリーキネティックスとにより、積層工程中のEVA の硬化挙動を研究しています。この研究は、正しい工程条件を確認するために重要なものなのです。また品質管理にも利用できます。
今日の太陽電池モジュールでは、太陽電池には、カバーガラスおよび背面カバーパネル(ほとんどがTedlar®1、2、3 製)とともに、酢酸エチルビニル(EVA) を接着します(図1も参照)。
EVA の長所は、可視領域における透明性、UV 光に対する化学耐性および絶縁能力に関する長時間特性が優れている点にあります。EVA は、このアプリケーションではポリエチレン約67% と酢酸ビニル33% から構成されたブロックコーポリマーです(図2 を参照)。非架橋EVAは、その分子構造に応じて昇温期間中にガラス転移と融解を示す熱可塑性材料です。太陽電池モジュールの積層工程中に、EVA鎖は相互に架橋されます。この架橋反応は、昇温期間中に2 つのオキシラジカルに分割される過酸化物により引き起こされ、この2 つのオキシラジカルは次にEVA ポリマーの架橋プロセスを促進します。この架橋反応の後に初めて、EVA は、太陽電池モジュール内で発生する可能性のある高温(最大80℃)においても、機械耐性を有する材料となるのです。
積層の最適化と太陽電池モジュール完成品の品質管理のために、EVA の架橋度を決定しなければなりません。少し前までは、これは溶媒抽出により行われていました。最近では、そのためにDSC 測定も使用できることが明らかになっています。
本稿では、DSC またはDMA 測定からのモデルフリーキネティックスにより架橋反応を記述する方法を示します。これにより、積層工程における温度と積層時間の最適化が可能になるのです。
図1:PV モジュールの構造 |
図2:EVA の化学構造 |
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参考資料
[1] Michael DeBergalis, Journal of Fluorine Chemistry 125 (2004), 1255–1257.
[2] T. Krieger, H. Roekens-Guibert, Environmental impacts of Tedlar ® PVF film for use in photovoltaic modules, DuPont.
[3] A. K. Plessing, in: G. M. Wallner, R.W. Lang (Eds.), Proceedings of Polymeric Solar Materials, Leoben, Austria, 2003, pp. XII1–XII8.
[4] Z. Xia, D.W. Cunningham, J.H. Wohlgemuth, PV Modules, 5, 1(2009), 150–159.
TOP-PEMと標準DSCによる脂環式エポキシド樹脂のUV硬化
光(紫外線)による材料の硬化は低温、例えば室温でさえ起こることが多いのです。その際、材料がガラス化することがあります。温度次第では、(たとえゆっくりではあっても)硬化はガラス状態でさらに進行します。本稿では、この種のプロセスをTOP-PEMと標準DSC測定により詳細に調査します。
はじめに
UV 硬化ワニス、コーティングまたは接着材は今日幅広く使用されています。この種の系の主なメリットとしては、(系にもよりますが)数秒以内での硬化や、比較的低温(室温)でも可能な高品質のコーティングやボンディングの実現(基材への熱負荷の小ささ)や、生態学的側面(溶剤放出なし、乾燥プロセス(エネルギー消費)なし)があります。
ただし、着色ラッカーの硬化の場合に限っては、いくつかの問題があります。この場合、顔料もUV 光を吸収し、その結果、硬化が不完全なものになる可能性があるのです。
本稿では、どのような方法で光硬化性樹脂の等温硬化プロセスをDSC により測定できるのかを示します。動的後硬化実験により決定される硬化度に対する温度の影響を調べてみました。さらに、TOP-PEM により、UV 光照射直後の樹脂の挙動を記述します。
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DMAによるサンドイッチプレートの個々の構成材の分析
合わせ材料プレートの個々の構成材の機械特性をDMAにより調べました。ポリウレタン心材の温度依存性せん断弾性率とCFK外板の曲げ弾性率が、サンドイッチ構造の機械挙動を決定する重要な変数です。
はじめに
サンドイッチプレートは、2 つの薄い剛性外板とその間の軽量心材から構成されています。このような合わせ材料は、軽量にもかかわらず高い曲げ強度と曲げ剛性が要求されるアプリケーションで幅広く使用されています。典型的なアプリケーションとしては、スポーツ用具(例えば、サーフボード)、自動車製造、航空産業(例えば、客室の床、着陸用フラップ)があります
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水素備蓄に関するTGA/MaxRes実験
再生可能な資源からのエネルギー生産は大抵、何らかの不安をかかえており、そのため、中間備蓄が必要となります。その1つの可能性を提供するのが水素です。その安全で確実な使用のために、固体の形で備蓄する方法の研究開発が進められています。有望であるのが水素化ホウ素で、この物質から、水素を再び遊離させることが可能です。その際、様々な組成の水和物が生成します。下記論稿において、TGAを使ってどのようにして水和物の安定性範囲を特定できるかをご紹介します。この情報は、最適なプロセス進行と高収率の水素生成のために重要となります。
はじめに
持続的なエネルギー供給のためには、太陽エネルギー、風エネルギー、バイオマスなど再生可能なエネルギーの採用が不可欠です。
再生可能なエネルギーの最大の難点は、これが連続的に生成されてこないことに起因します(例えば太陽エネルギーの場合、昼と夜のサイクルが挙げられます)。供給の空白を埋められるようにするためには、再生可能な形のエネルギーを一時的に備蓄しなければなりません。その候補に挙げられるのが例えば水素で、これは、電気分解によって水から作られ、必要に応じて燃料電池で電気に変換され、そこで再び水が生成します。水素はこうして備蓄/運搬可能なエネルギー担体に変換されます。
水素は、気体として、液体として、または、結合した固体の形で備蓄し、運搬することができます。気体または液体として備蓄することは、特に安全上の理由から手間がかかり、その分高くつきます。
そこで、研究は今、水素を例えば金属水素化物または複合水素化物などの固体の形で備蓄する方向に集約されつつあります[1]。後者に数えられるのが水素化ホウ素ナトリウムNaBH4 です。この材料では、最大10.6wt% の水素を備蓄することが可能となります。水酸化物からのH2遊離は、水を添加することによって下式に従って行われます[2、3]。
NaBH4 + (2 + x) H2O → NaBO2 ⋅ x H2O + 4 H2 (ここで、 x = 0, 2, 4)
反応物(水素化ホウ素と水)の総和から生産される水素を基準にすると、無水物が生じる時(x = 0)、備蓄できるH2 は最大10.6% ですが、四水和物が生成する時(x = 4)は5.5%にすぎません(表1 を参照)。一方で、移動使用の場合、運搬しなければならない水の量こそが重要な重量ファクターとなります。
我々の仕事の目標は、メタホウ酸塩の相異なる水和物段階を特定するために熱重量分析(TGA)を、また特にMaxRes 法を採用することです。この情報は、水素化ホウ素ナトリウムから水素が分離する際にできるだけ低い水和物段階しか現れないように実験条件を決定する上で重要となります。
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技術資料
[1] A. Züttel, Hydrogen storage methods, Naturwissenschaften, 91 (2004) 157.
[2] H. I. Schlesinger, H. C. Brown, A. E. Finholt, J. R. Gilbreath, H. R. Hoekstra and E. K. Hyde, Sodium borohydride, its hydrolysis and its use as a reducing agent and in the generation of hydrogen, J. Am. Chem. Soc., 5 (1953) 215.
[3] R. Bouaziz, Contribution à l›étude des borates de lithium et de sodi - um, Ann. chim. (Paris), 6 (1961) 348–93.