熱分析 UserCom 26内容
TAのヒント
- 複合材料の DMA 測定における最適測定法と評価法の選択
ニュース
- STARe Excellence新シリーズ
- 加熱/冷却モードで使用するDSC 測定セルの校正/調整用標準物質としての液晶
アプリケーション
- 酵母を対象とした熱重量分析と熱量分析
- TGA によるエラストマー中のオイル含有量測定
- セメントに含まれる硫酸カルシウム二水塩と半水化物の測定
- 圧力依存 OIT 測定による酸化安定性の評価
- HgI2のサーモクロミズム
はじめに
食品の香り成分はその多くが揮発性であるため、製造中や消費者が調理する間に失われてしまうことがあります。
熱処理過程(低温殺菌、調理など)で香り成分が失われる程度を減らす1 つの可能性として、揮発性分子を安定なカプセル(たとえば内部が空の酵母細胞)に閉じ込める方法が考えられます。
著者らは酵母細胞に閉じ込めた香り成分が放出される過程を温度の関数として研究しました。 本稿はこの研究で用いた方法について解説します。測定には熱重量分析法と示差走査熱量分析法を用いました。測定結果を詳しく検討することにより、香り成分が酵母細胞から放出されるメカニズムを更に深く理解することができます。
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エラストマーの組成分析は品質管理と製品開発のための重要なステップです。ここに報告する研究では TGA/SDTA システムを用いて NR/SBRエラストマーブレンドのオイル含有量を測定しました。この論文では特に昇温速度の最適化と真空の利用によって、オイルの蒸発とポリマーの熱分解をどの程度まで分離して測定できるかに焦点をあてています。その結果によれば、昇温速度を低く設定することによりオイル測定の精度を向上させられることが分かりました。ただし、分析時間は当然ながら長くなります。また、周囲圧力を下げることによりオイル含有量をより迅速に、かつ良好な精度で測定できることが分かりました。
はじめに
通常、エラストマーは種類の異なる何種類ものポリマー成分に加えて複数の添加剤(架橋剤、可塑剤、充填材、安定剤、難燃剤など)を含んでいます。エラストマーの製造プロセスと物理特性は主としてエラストマーの化学的組成に依存します。エラストマーの組成分析はその研究と開発に携わる科学者はもとより、製造者と購入者にとっても重要です。このような分析の目的は原材料と加硫後の製品の品質評価を始め、新しい調合法の開発、ブレンドや加硫処理で使用する処理パラメータの最適化など多岐にわたります。
エラストマーで使用される最も重要な可塑剤は各種のオイルです。オイルはエラストマーの物理的特性ばかりでなく、流動特性や加工処理における挙動も改善してくれます。エラストマーに含まれるオイル含有量の決定は、オイルの蒸発過程とポリマーの熱分解開始がしばしば重畳するため、分析法としてはかなり困難な部類に属します。したがって、オイル含有量を正確に決定するためには、オイルが低い温度で蒸発するような測定条件を設定しなければなりません。
エラストマーからオイルが蒸発するプロセスには、相転移と時間に依存する過程が関与します。サンプル量を小さくして表面積/体積比を大きくすると共に周囲圧を低く設定すれば優先的に蒸発過程が促進されます。また、昇温速度を小さくすれば熱分解開始温度に達するまでの時間が長くなりますから、より長い時間を蒸発に利用することができます。
その一方、ポリマーの分解温度はサンプル量や昇温速度、圧力の影響を殆ど受けません。したがって、これらのパラメータを最適化すればオイルの蒸発とポリマーの熱分解をより明確に分離させることが可能であり、より正確にオイル含有量を決定することができるはずです。本稿ではNR/SBR エラストマーブレンドを例にとってこの考え方を実証しました。
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はじめに
石膏はセメントの重要な添加剤の1 つであり、二水和物(CaSO4 ·2H20)または半水和物(CaSO4 ·½ H20).)として使用されます。石膏はクリンカーと共にすり潰されて、セメントの沈降を防止して硬化させる働きをします。石膏を加えないと水和したアルミン酸カルシウムは、ほぼ 10 分以内に結晶化してしまいます:石膏はその添加量に応じて、数時間から数日の間、この結晶化過程を遅らせてくれます。したがって、セメントの品質管理においては CaSO4 の二水和物または半水和物の含有量を正確に把握することが非常に重要です。
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各種物質の酸化誘導時間(OIT: Oxidation Induction Time)の圧力依存性を測定しました。その結果は OIT が圧力の指数法則に従うことを示しており、さらにこの指数が安定性や酸化傾向、以前に受けた損傷に関する追加的な情報を提供できることが分かります。この予測は酸化反応が反応核から生起して順次サンプル全体に拡大するという仮定に基づいています。このような過程が実際に起こることが高分解能化学発光測定により確認されました。
はじめに
物質の酸化安定性を評価する手段としてしばしば用いられるのが酸化誘導時間(OIT)の測定です。.
この測定では、まずサンプルを不活性条件下(DSC セルを窒素でパージ)で十分な高温まで加熱し、短い熱平衡化時間を置いた後にパージガスを窒素から酸素へ切換えます。適正な温度が選択されている限りは、雰囲気を切り換えても DSC 信号が直ちに変化することはありません。
しかし、ある程度の誘導時間が経過すると発熱的な酸化反応が開始されます。OIT は、ガスを窒素から酸素へ切り換えた時点から起算して酸化反応の開始が認められるまでに経過した時間を意味します。
OIT は物質の現在の化学的状態に強く依存します。たとえば、化学的な熟成が進んでいると実測されるOIT が著しく短くなることがあります。
そのような例の 1 つを図 1 に示します。この図は、化学薬品水溶液の輸送に使用されていたポリエチレン(PE)チューブに 210℃ で OIT 測定を行った結果を示しています。測定サンプルの一方はチューブの内側、他方はチューブの外側から採取されました。
チューブの内側はもちろん溶液と直接接触していました。
この測定によれば、チューブの外側から取り出した材料の方が、内側のサンプルよりも著しく長い OIT を示しています。このことからも、OIT が物質が受けている損傷の程度を示す尺度として使用できることが分かります。
図 1.標準的な DSC装置を用いて大気圧下で実行した OIT 測定。サンプルは PEチューブの一部を切り出したものです。反応温度は210 ℃ です。劣化の進んだ( ”stressed” 、損傷の進んだ)サンプルはチューブ内側から採取したものであり、”unstressed”サンプルはチューブの外側から採取しました。 |
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はじめに
サーモクロミズム(Thermochromism)とは物質が温度変化に応じて可逆的に色を変える現象を表す用語です。サーモクロミズムを発現する物質は有機、無機を問わず多数存在します。この現象は温度に依存して物質内で起こる構造的相変化に関連して発現し、その際に可視領域スペクトルの光を吸収する電子軌道が変形します。
これにより物質の吸光と反射特性(したがって物質の色)に変化が生じます。カルシウムまでの軽い元素から構成される無機化合物はその殆どが白い色をしています。その理由は、光吸収が起こる波長帯(着色が起こる原因)が紫外領域にあるためです。この領域の光は人間の目には見えません。
また、サーモクロミズムを示す化合物は温度帯によって色が消えることがあるため、しばしば光学的温度インジケータとして使用されます。
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