熱分析アプリケーションマガジン UserCom 23 (日本語版)

UserComは、熱分析に関わる研究者向けのアプリケーションマガジンです。​

熱分析 UserCom 23(日本語版)
熱分析 UserCom 23(日本語版)

熱分析 UserCom 23内容

TAのヒント

  • DMA 測定の最適実験パラメータ決定法

アプリケーション

  • DSC 曲線に現れるピーク温度の評価と解釈 Part 1:基本原理
  • 光硬化接着剤の光熱量測定法によるシミュレーション
  • DSC を使用した植物オイルの特性分析
  • ポリマーの鎖状構造が流れ特性に及ぼす影響

ヒント/ノウハウ

  • 特異なサンプル特性が偽ピーク発生の原因になります
  • 加熱速度の影響:溶融と化学反応

DSC 曲線に現れるピーク温度の評価と解釈 Part 1:基本原理

ピーク温度は DSC 測定における重要な実験値ですが、測定条件やピークの発現原因などに依存する系統的な差異が現れ易い値でもあります。この論文ではこれらの差異が現れる原因を説明するとともに、差異を補正する可能性についても検討します。差異の原因となるポイントに適切な注意を払うことによりサンプル間のより信頼できる比較が可能になり、さらに意味のあるデータの取得が可能になります。

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光硬化接着剤の光熱量測定法によるシミュレーション

光硬化タイプの接着剤は現代の電子産業において精密部品や電気接続を所定の位置に固定するために広く用いられています。この論文では光熱量測定法を使用してこのような光硬化プロセスを詳細に方法を説明します。

はじめに

現代のエレクトロニクスコンポーネントは非常に多くのミニチュア化された部品とその接続から構成されています。これらの部品は製造プロセスで正確に所定の位置に固定されなければなりません。

これを実現する 1 つの方法がわずか数秒で硬化する光硬化接着剤を使用することです。光硬化接着剤を使用する方法は何項目もの重要な利点を備えており、たとえば部品に熱的/機械的応力がかからず、かつ実際の固定化が非常に短時間のうちに進行します。
この論文ではハードディスク記憶デバイスの読み出し/書き込みアクセスアームの製造プロセスで使用される技術用接着剤を例として硬化挙動を明らかにするための研究方法について説明します。ここでは DSC-光熱量計システムを使用して製造方法のシミュレーションを行い、またサンプルの硬化後の挙動を調べました。こうして得られた結果を何種類ものアクセスアームからサンプリングした実サンプルの測定結果と比較しました。図 1 に示すのは典型的なアクセスアームの例です。

この図で“Sample” と書いてある部分から切り出した小さなサンプル(約0.4 mg)を用いて比較測定を行いました。

図 1: アクセスアームはハードディスクの read/write ヘッドをディスク表面上で移動させるためのアームです。図に示す位置から小さなサンプル(約 0.4mg)を切り取って DSC分析に供しました。
図 1: アクセスアームはハードディスクの read/write ヘッドをディスク表面上で移動させるためのアームです。図に示す位置から小さなサンプル(約 0.4mg)を切り取って DSC分析に供しました。

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DSC を使用した植物オイルの特性分析

はじめに

示差走査熱量測定( DSC:Differential Scanning Calorimetry)は各種材料の特性化を目的として研究や製品開発、品質管理などのさまざまな分野で広く使用されている分析法です。

たとえば、脂肪やオイルの結晶化は長年にわたり DSC を用いて研究されてきました。

この論文では DSC を用いる測定の中で植物オイルを対象とした興味深い例をいくつか取り上げて解説します。植物オイル(濃度によっては植物性脂肪)は植物成分の 1 つであり、植物の種子や果肉を圧搾するかまたは溶媒抽出後に溶媒を蒸発除去して得られます。植物オイルの主たる成分は各種トリグリセリドです。トリグリセリドとは化学的には長い 3 本のカルボン酸の鎖(脂肪酸)を持つグリセロールをエステル化して得られるトリエステルを意味します。

天然オイル中のトリグリセリドは種類の異なる多数の脂肪酸を含みます。したがって、天然オイルは常に各種トリグリセリドの混合物です。天然オイルはこの他に各種の量と種類の部分グリセリド(モノグリセリド、ジグリセリド)と、オイルの原料と処理方法に依存するその他の成分(例:リン脂質、ステロール、ビタミンなど)を含んでいます。脂質やオイルの結晶化の挙動はその構成成分に大きく依存しますが、いずれの場合も DSC で簡単に測定が可能です。オイルサンプルから得られる DSC 曲線はオイルごとに特定の形状を示しますから、これをそのオイルの「指紋」として使用することができます。実際、DSC は各種オイルの違い(たとえば精製オイルと天然オイル)を見分けるための優れた方法です。

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ポリマーの鎖状構造が流れ特性に及ぼす影響

はじめに

ポリマーの持つ分子レベルの構造(分子量、分子量分布、長い鎖の分岐の程度など)はエラストマーの処理に強い影響を与えるばかりでなく加硫物の特性を大きく左右します。したがって、処理条件と加硫物の特性を目的に合わせて効率的に最適化するためには、ポリマーの技術的特性と分子レベルでの構造を定量的に関連付ける必要があります。

たとえば EPDM のように大きな分子量を持つポリマーの分子構造を標準的な手法(例:GPC)で解析するのは困難ですから、完全で正確な特性化のためには別な測定法が必要となります。

Thimm and Maier [1, 2] はこのような測定法の 1 つとして粘性流領域での動的粘弾性分析が鎖構造の定量的特性化に有効に使用できることを示しました。このレポートでは動的粘弾性分析( DMA: dynamic mechanicalanalyzer)とレオメータを使用して動的粘弾性分析を実施する具体的な方法を説明します。

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文献

[1] W. Thimm, C. Friedrich, M. Marth, J. Rheol 43,6 (1999)
[2] Maier et al., J. Rheol 42, 1153-1173 (1998)

ノウハウ