熱分析 UserCom 20内容
TAのヒント
- 材料特性を見極めるDSCの 冷却測定の利点
ニュース
- 顕微鏡分析について
- 光化学ルミネッセンスに ついて
アプリケーション
- 液体から固体への10桁以上の機械的特性値変化の測定
- DSCによるプラスチック成型品の品質評価についてパート 2プロセスコントロール
- ポリプロピレンの光化学ルミネッセンス
- ホットステージ顕微鏡観察による熱転移の解明
- サンプルロボットについての情報:分析前の水分含有量の変化
液体から固体への10桁以上の機械的特性値変化の測定
10桁以上の機械的特性値の変化を、例として等温硬化反応を見て議論します。材料は異なった物理的状態を経過し(低粘性ニュートン液体、非ニュートン液体、ゲル状とガラス状など)、このような変化は、DMA/861e とHaake社のRheoStress600を使用し測定することが可能です。
はじめに
材料の機械的特性は温度または化学構造の関数として何十桁の単位で変化します。たとえば、氷が溶けるとき、およそ2MPa・sの粘性で、弾性固体から液体まで変化します。これは、機械的特性において12桁係数以上の変化を意味します。同様な機械的特性値の変化は、高分子化合物でも起こります。この場合の典型的な変化は高温でのガラス化と溶融です。しかし、粘着剤と重合コーティング材のような反応性材料では、反応の際に機械的特性変化と同様の物質変化を見せることがあります。
機械的特性の知見は、構造と分子の相互作用に関する情報を与えてくれます。実用的なアプリケーション(例えば、粘着剤または複合物の生産)では、流動挙動、ゲル化とガラス化などの情報を得ることは非常に重要です。このデータを得るために、できるだけ広い範囲にわたって、機械的特性値が確定されなければなりませんが測定の観点からみると、対数スケールで材料特性の変化が起こるのに対してこの測定に使われるセンサーが線形分解能を持つということがひとつの問題になる場合があります。この問題の解決には、様々な装置と様々なサンプルの幾何学的考察がなされますが、通常、1装置は1サンプルに対応する幾何学的設定値の3桁~5桁係数をカバーします。従ってもし、広範囲をカバーする測定が必要であれば、いくつかの測定カーブが別々に記録され、それらがオーバーラップする範囲において合理的に一致すればよいことになります。この問題はMETTLER TOLEDO DMA/SDTA861e の開発段階で既に提起されており、測定値範囲を適正に広げることには十分な考察がされています。せん断モードでは、DMAは1測定1サンプルの幾何学的設定がされており、弾性率の変化を8桁係数まで測定できます。これは、1測定でガラス質からゲルまで材料の機械的挙動を測定することを可能にします。ゲルから低粘弾性までの範囲で測定値データを得るために、DMA測定は粘性的なデータ(Haak社RheoStress600で測定)と組み合わせて使用することができます。この場合、2つの装置を並行使用することで広範囲のオーバーラップ領域をカバーし、非常に有利な実験となります。
この研究では、メトラー・トレド社DMA/SDTA861e とThermoelectron Haake RheoStress600を使用し、例えばエポキシ樹脂の等温硬化実験により剛性率を10桁係数にわたり測定することでそれらの状態変化を検出します。
モデル物質として、ビスフェノールA(DGEBA)のdiglycidyletherと硬化剤または硬化を起こしうる物質のdiaminodiphenylmethane(DDM)からなる2-構成要素化学量論のエポキシ樹脂を使用しました。
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DSCによるプラスチック型部品の品質保証。パート 2プロセスコントロール
ここでは、プロセスコントロールにおけるプラスチック成型部品の品質保証でDSCを使用したいくつかのアプリケーションを紹介していきます。高分子の集合体の温度(溶融温度)や、鋳型の温度、高分子が溶融の際にかかる時間(溶融の際の滞留時間)などのプロセスパラメーターがどのようにDSCで最適化され、コントロールされるのかがわかります。また、リサイクル材料をどのように使用するか、成型部品の品質をどのようにDSCで測定し評価するのかを述べていきます。この記事のパート1はUserCom19で述べていますので、興味のある方はそちらをご覧ください。
はじめに
技術的なプラスチック製品の品質は、本来形態学的に影響されるが(使用される材料の微細構造)、実際、品質評価では、部品の寸法精度だけで品質を評価しています。つまり、プラスチック部品の品質条件は、部品の寸法が、許容範囲内であれば満たされるのです。しかし、プラスチック部品の品質条件の精度を満たすには、部品の形態を特徴づけるパラメーターが品質評価において不可欠となります。これらのパラメーターを決定する上で、比較的簡単で、迅速な方法は、DSC(示差走査熱量計)を使用することです。この記事のシリーズの前回パート1では、高分子の納入品の品質管理についてDSCのアプリケーションを用いてご説明しました。パート2では、プロセスコントロールにおけるDSCの使用実例をご紹介いたします。
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ポリプロピレンの光化学ルミネッセンス
はじめに
光化学ルミネッセンス(CL)は、物質の可視光の発光を示し、結果として化学反応を起こすものを表す専門用語です。1960年代に異なった高分子がこの現象を元に研究されていました。通常状態では、多くの高分子は大気圏の酸素のために、酸化し、劣化したり、分解したりします。最初のステップでは、不安定なアルキル基は熱効果、機械的圧力、光の影響を通して形成されます。ラジカル物質はラジカル過酸化物を形成し酸素と反応します。ラジカル過酸化物はプラスチックの生産の際にも作られますし、好ましくはありませんが第2の製品としてのプラスチックも生み出すことができます。酸化すると、連鎖反応のメカニズムにより、過酸化物のラジカル物質が高分子の分解を加速します。
光化学ルミネッセンスの反応が起こる反応のステップは、完全にはわかっていません。科学的な文献でよく記述されるメカニズムでは、酸素の他に2つのラジカル過酸化物が再度結合し、ラジカルカルボニルが形成されます。(ラッセルメカニズム[2])光化学ルミネッセンス測定では、高分子の酸化ができる過程と一方でスタビライザーの影響がわかります。この記事では、HP DSC827eがどのように使用できるかについて述べたいと思います。
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文献
[2] G. A. Russell, J. Am. Chem. Soc. 79, 3871, 1956
ホットステージ顕微鏡による熱転移の解明
はじめに
DSCは材料の相転移の分析において優れた装置です。溶融や結晶の温度や固-固と液体のガラス転移が起こった時の温度を迅速に測定できます。測定結果はDSCカーブまたサーモグラムとよばれる比熱や吸熱ピークで表されます。DSCカーブのみをベースとすると、DSCのカーブだけでは、材料構造の熱的変化がどのように行われているのかはわかりません。この情報を得るために、最適ディスプレイシステムを使用します。
ホットステージ顕微鏡は熱転移の特徴を見極めるために幅広く使用されている技術です。加熱の際にサンプルの形態的変化を直接見ることが可能なので、DSCカーブの問題をより簡単に解釈できます。形態と結晶構造の変化は、結晶のサイズと数においても同様に見られます。ホットステージ顕微鏡は、異なった加熱速度にシステム感度が影響されないという利点があります。
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サンプルロボットのヒント:分析前の水分含有量の変化
サンプルチェンジャーは大量のサンプルを測定する熱分析において頻繁に使用されています。サンプルを同時に準備でき、また週末、夜間などに分析測定を行うことが出来ることが利点です。しかし、特に時間のかかる熱重量分析においては、測定準備の出来ているサンプルはサンプルチェンジャー内で、長期間、大気中にさらされています。この間、サンプルは、水分などの揮発性の要素を損ねるかもしれません。また逆に、吸湿性のサンプルであれば、水分を吸収してしまいます。このどちら過程でも分析結果の精度は影響を受けます。この影響を防ぐ方法は、2つの方法があります。
- サンプルはアルミクルーシブルで完全密封(ハーメチックシール)し、上蓋は、実験直前まで穴はあけません。これを可能にするには、サンプルロボットには、クルーシブルリッドピアシングキット(図1)を設置しなければいけません。この方法は、例えば製薬物質の水分を分析する際には特に適しています。
- サンプルはセラミッククルーシブルを使ってセットし、その上にアルミの専用カバーをセットします。測定が始まると、サンプルロボットが自動で蓋を取り除きます。
図1: 測定直前に特殊なアルミ製蓋に穴をあける針が搭載されたサンプルロボット |
この後は、ポリアミド6を使用した例の実験で開放系のクルーシブルのサンプル保管の影響と、クルーシブルリッドピアシングキットを使用する重要性について述べたいと思います。
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