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熱分析アプリケーションマガジン UserCom 11 (日本語版)

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UserComは、熱分析に関わる研究者向けのアプリケーションマガジンです。

熱分析 UserCom 11 (日本語版)
熱分析 UserCom 11 (日本語版)

熱分析 UserCom11内容

TAのヒント

  • DSC カーブの解釈; パート1:ダイナミック測定

ニュース

  • DSC822e

アプリケーション

  • DSC 測定の観点から見たガラス転移;パート2:材料特性についての情報
  • 油脂の温度数値:DSC 解析、それとも滴点?
  • 部分水和したポルトランドセメント系の研究へのMaxRes の利用
  • ADSC でのエポキシ樹脂ダイナミック硬化における透過・失透現象
  • 繊維の膨張と収縮; パート1:ダイナミック測定

ヒント

  • DSC821e の冷却性能

DSC測定の観点から見たガラス転移;パート2:材料特性についての情報

はじめに

本気時の連載第1 回(ユーザー・コム10)では、ガラス転移の基本原則並びに測定と評価について論じました。今回のパート2 では、いくつか実践的な側面について説明します。

ガラス転移には、常に調査対象になる物質の分子構造がある程度無秩序になっている必要があります(例、非結晶質領域)。ガラス転移は、分子の相互作用における変動にきわめて敏感です。ですから、ガラス転移の測定を用いて、サンプル間の構造的な差異や材料の変化を決定して特徴づけることができます。

[…]

油脂の温度数値:DSC 解析、それとも滴点決定法?

製薬産業と食品加工技術分野で使用される純粋な出発原料の多くは、融点決定法の助けを借りて日常的に分析され特徴づけられています。しかし、食用油、油脂、ワックスについては事情が全然異なります。

温度数値

このような製品のもつ多彩な組成と種々の結晶変態は、融点などの単一の温度数値によってはそれらを効果的に特徴づけられないことを意味しています。

それでも、少なくとも比較を目的として、日常的分析において簡単に測定できる温度数値を得るために、軟化点、滴点、滑り融点、ワイリー&ウッベローデ式融点などの様々な手順がいくつも開発されてきました。

[…]

部分水和したポルトランドセメント系の研究へのMaxRes の利用

はじめに

セメント化学では、単純化のために以下の記号を使用します:

A は Al2O3 C は CaO、H は H2O、S は SiO2 は SO3になります。
例えば 3 カルシウム・アルミン酸塩 3CaO・Al2O3 C3A になり、石膏CaSO4・2H2O は CS̅H2 になります。 

ポルトランドセメントに水を加えると凝固反応や硬化反応が始まり、塊全体が互いに結合します。ボルトランドセメントの水和によって様々な水和物が形成されるので、これは極めて複雑なプロセスです:

  • ポルトランドセメントは、異なる速度で結晶化により水を摂取する様々な成分を含んでいます。
  • 多種多様な水和物が形成され、その一部は化学式どおりではありません。
  • 水和物の結晶化度は低くなります。

水とポルトランドセメントを混合して最初の数分間の内に、C3A は迅速に反応して様々なカルシウム・アルミニウム水和物を多数生成します。

  • 3CaO.Al2O3.6H2O (C3AH6),
  • 2CaO.Al2O3.8H2O (C2AH8) and
  • 4CaO.Al2O3.19H2O (C4AH19)

水相中のカルシウム硫酸塩の存在(融解した石膏)が原因で C3A が水和でエトリンガイト(C6AS̅3H32)になります:

3CaO.Al2O3 + 3CaSO4.2H2O + 26H2O ⇒ 6CO.Al2O3.3SO3.32H2O

C3A + 3CS̅H2 + 26H ⇒ C6AS̅3H32

同時に少量のコロイド状カルシウム珪酸塩ゲル(CSH)が C3S から生成されます

C3S + nH2O ⇒ C3S.nH2O (gel)

CSH 、エトリンガイト及び二水和カルシウム硫酸塩の分解温度が互いに接近しているので、この水和反応の初期段階の熱重量測定カーブを解釈するのはさらに困難になります。

この熱重量測定は、メトラー・トレドTGA/SDTA850 を使って実行しました。水和プロセスの分離を改善するためにイベント制御式昇温速度調整オプション(MaxRes[3-5])を使用しました。

[…]

 

ADSC でのエポキシ樹脂ダイナミック硬化における透化・失透現象

はじめに

温度変調型示差走査熱量計(ADSC)は、直線的な昇温速度に周期的な温度変調を重ねるDSC 手法です。振幅をAT、周波数をω とする正弦波変調の場合、昇温速度 β は次式によって説明されます:

β = βo + AT cos (ωt)         (1)

従来のDSC では、温度プログラムは最初と最後の温度と昇温速度によって定義されます。ADSC では、基本的な昇温速度 βo に加えて、2つの追加パラメータ、すなわち変調振幅 AT と変調周波数 ω が存在します。実験から意味のある情報を得るにはこれらのパラメータを慎重に選択しなければなりません(ユーザー・コム6 の記事も参照)。

昇温速度の変調の結果、変調された熱流量シグナルΦが生じます。この変調されたシグナルはフーリエ解析にかけられて様々な成分に分離されます。その成分の1 つはトータル熱流量であり、これは従来のDSC が昇温速度β0 で測定して得られるシグナルに厳密に一致します。さらに、複合熱容量∣Cp*∣のカーブが次式によって計算されます:

|Cp∗| =  AΦ / Aβ                 (2)

ただし、AΦとAβは、それぞれ熱流量の振幅と昇温速度の振幅です。変調した昇温速度と変調された熱流量の間の位相角も計算されます。これによって、サンプルの緩和プロセスについて特定の要求を行うことが可能になります。

ADSC を使えばエポキシ樹脂の等温硬化を調べることができます。これで特に興味深いのは、透化と温度-時間-変換ダイアグラムの決定です[2、3]。本稿では、どのようにすればADSC 手法をダイナミック硬化の研究に利用できるか説明します。昇温速度を十分に遅くすれば、熱容量カーブと位相角カーブによって透化(液体→固体への転移)の後に失透(固体→液体への転移)が続くのを観察することができます。対応する温度は、∣Cp*∣シグナルで決定されてから、連続昇温硬化ダイアグラム(CHT ダイアグラム)に入力されます。CHT ダイアグラムは、様々な一定の昇温速度でこうした転移に到達するのに必要な温度と時間を示しています(4)。等温TTT ダイアグラムと同じように、CHT ダイアグラムはこのような樹脂の物性と硬化条件への影響の研究に用いられます。

[…]

文献

[1] C. T. Imrie, Z. Jiang, J. M. Hutchinson, Phase correction in ADSC measurements in glass transition, USER COM No.6, December 97, p.20-21
[2] S. Montserrat, Vitrification in the isothermal curing of epoxy resins by ADSC, USER COM No.8, December 98, p.11-12
[3] S. Montserrat, I. Cima, Thermochim. Acta, 330 (1999) 189

繊維の膨張と収縮

はじめに

全世界で生産される繊維の量は膨大なものです。毎年の生産量は合成繊維が2000 万トン以上、天然繊維が2000 万トンに及び、これら全ての繊維をつなぐと地球から太陽までの距離のほぼ1 万倍に相当します。

繊維の特徴はその長さが直径よりもはるかに長いことにあります。紡糸・延伸工程に由来する微小構造と大きな異方性という物理的特性が、繊維の特殊な物性と特色を生む主な2 つの理由です[1、2]。実際、紡糸、延伸、アニーリングは最も重要な繊維製造ステップです。こうしたプロセスが、予想される用途に必要な弾性率(ヤング率、E)や強度などの物性を決定します。染色性、収縮性(繊維の縮み)及び熱安定性は、微結晶の大きさ・数・配向と非晶質領域の分子構造によって決定されます。特に熱機械分析(TMA)、DMA、DSC、TGA、TOA は、どれをとっても繊維と糸の温度と機械的荷重の影響を研究するための優れた手法です。これらを使えば構造、物性及び製造プロセス[3]間の関係を調べることができます。全く同一条件下での比較測定が、転移温度、膨張・収縮挙動の特徴を十分に把握できるものとして極めて賞用されています。さらに、TMA 測定によって線膨張率、ヤング率、E 並びに、温度の関数としての収縮力などの数値も得られます。

[…]

文献

[1] L.H. Sperling, Introduction to physical polymer science, 2nd ed., Wiley- Interscience, New York (1992), p. 263.
[2] M. Jaffe, J. D. Menczel, W. E. Bessey, Chapter 7 in Thermal Characterization of Polymeric Materials, 2 nd ed. (E. A. Turi, Ed.), Academic Press, New York (1997) 1767 - 1954.
[3] ibid., Seite 1785.

ノウハウ